奈良の名所は、大仏だけじゃない!中川政七商店による「鹿猿狐ビルヂング」誕生。
MARZEL初の奈良の記事。今回は奈良生まれ、奈良育ちの金輪際セメ子が担当します。私のふるさと奈良は日本を代表する古都であるにもかかわらず、「奈良に美味いもんなし」とディスられたり、修学旅行生が泊まってくれなかったりと、いまいち光が当たらない存在だったように思います。でもこの春、素晴らしいニュースが奈良中を駆け巡りました。それが、「中川政七商店による複合商業施設のオープン」です! あの「中川政七商店」が満を持して創業の地・奈良にオープンさせる、その名も「鹿猿狐ビルヂング」。これはもう、リニア開通ぐらい奈良県民にはうれしいニュースです。いったいどんな施設なのだろうかと期待に打ち震えながら、内覧会にお邪魔してきました!
「中川政七商店」は、奈良の希望の星。
鹿猿狐ビルヂングをオープンする「中川政七商店」は、享保元年(1716)、麻織物「奈良晒(ならさらし)」の問屋業として創業。“日本の工芸を元気にする!”をビジョンに掲げ、自社ブランドの直営店を展開するほか、工芸メーカーへのコンサルティング事業なども行っています。現会長の十三代中川政七さんの手腕により急成長を遂げ、今やその知名度は全国区に。中川政七商店最大規模となる旗艦店は、なんと渋谷スクランブルスクエアに出店されています。
平たく言いますと、中川政七商店は、奈良の希望の星です。奈良の企業が、渋谷スクランブルスクエアに約130坪の店舗を構えるなんて、誰が想像したでしょうか。いいえ、誰もしていません。私は初めてGINZA SIXにある中川政七商店を訪れた時、感動しました。スターになった同級生に会ったような気分。同じ奈良出身としてとても嬉しかったです。
そしてこのたびの鹿猿狐ビルヂングのオープン。もう楽しみで仕方ありません。というわけでさっそく、中をご紹介していきましょう!
幅さんのライブラリーと興福寺の五重塔、贅沢すぎるコワーキング
細い路地を曲がった先に、そのビルはありました。存在感はありつつも、周囲にとけこむたたずまい。もう入る前から惚れ惚れします。
路地の続きのようなエントランスから、階段をのぼって上へ(エレベーターもあります)。3階はコワーキングスペース「JIRIN」として活用される場所で、奈良の地に魅力的なスモールビジネスを生み出し、街を元気にするための取り組み「N.PARK PROJECT」の拠点となります。
壁一面の書棚には、BACH 幅允孝さんによる選書。そして反対側の窓からは、興福寺の五重塔が一望できます。
まずは、築130年の町屋を生かした「旧 遊中川 本店」から
ここからスタッフさんの案内による館内ツアーがスタート。
まずは、「旧 遊中川 本店」にお邪魔します。築130年の町家に、中川政七商店の原点である手績み手織りの麻をはじめ、日本の染織技術に支えられた服や服飾小物が並びます。
ここは中川家の住居であり、商いの場でもありました。天井には麻生地を検品するための竹竿があり、ここで卸売りをしていた当時の名残を感じさせます。外の格子は鹿よけで、ならまちの家では昔からおなじみのもの。吉野杉が使われていて、中には100年以上昔のものもあるそうです。天井には、東大寺・二月堂のお水取りのお松明も飾られていました。
大きなカウンターの奥には、色とりどりの麻生地が掛けられています。ここは「おあつらえ処」で、好みの麻生地を選んで、のれんや座布団などをオーダーすることが可能です。
屏風の鹿を愛でながら、濃茶をいただく至福の時間
続いては「茶論 奈良町店」へ。ここは中川政七商店による茶道ブランドで、お茶のお稽古のほか、テイクアウトでお茶を楽しむこともできます。さっそく濃茶ラテをオーダーして、その間に店内の喫茶スペースも特別に見学させていただきました。
中はかつて、中川家の住居部分だったそうです。壁に飾られている絵画は、もともとは屏風。なんと江戸時代後期の画家で、鹿を描く名手とされた内藤其淵(ないとうきえん)によるもの。本来なら美術館でガラスケースに入れて展示するような作品が目の前に……。毛並み一本一本まで精密に描かれた鹿を眺めつつ、店内ではお抹茶やおいしいお菓子がいただけるそうです。(なんという贅沢!)
古い蔵の中は、過去と未来をつなぐタイムマシン
次に向かったのは「時蔵」。ここは中川政七商店の歴史をアーカイブするスペースで、整然と積み上げられた桐箱は、その年の成果物や出来事を納めるためのもの。300余年の歴史を受け継ぎ、未来へつないでいくための場所になっています。
続いては、「布蔵」へ。布蔵に保管されている織機などの道具にふれながら、「麻のものづくり」を体験することもできます。というわけでさっそく挑戦してみました(事前予約制です)。
教えてくださるのは、ガイドの荻田さん。足でペダルを踏んで緯糸(よこいと)を通し、トントンと押さえて……と、これを右左交互に繰り返すのですが、手と足がごちゃごちゃになります。ぜんぜんリズミカルには織れません。萩田さんによると、熟練した人で季節が良い時期でも、一日に1メートルほどしか織れないそうです。
そもそも、麻という植物を糸にするまでの作業も大変。本当に、途方もなく手間と時間がかかるモノづくりであることがわかります。
狐と猿は、東京から!あの有名店が、奈良に初出店。
古い建物から、今度は新しい建物へ。ビルですが、瓦葺の屋根や路地のようなファサードなどまちと地続きのデザインで、蔵や座敷など古い建物とも調和しています。
そしてお次は、東京・代々木上原のミシュラン一つ星レストランsioによる初の和食店「㐂つね」。鹿猿狐ビルの狐は、ここの店名からきているんですね。こちらではすき焼きをメインに、コース料理がいただけます。この日は、大きなお揚げに大和牛やちらしを包んだ「㐂つねすき焼き重」をいただきました。酢飯と甘辛く炊いたお肉の相性が抜群! すき焼きのお肉と酢飯って意外な取り合わせでしたが、ものすごく美味しかったです。
最後は鹿猿狐の猿、東京・恵比寿のスペシャルティ・コーヒー専門店「猿田彦珈琲」へ。猿田彦珈琲の奈良出店は、ここが初めて。コーヒーはもちろん、中川政七商店のグラスで提供されるアルコールドリンク、オリジナルの「欧風バターチキンカレー」や「ビーフストロガノフ」などフードも展開されます。おしゃれな店内でコーヒーをいただいていると、ここが奈良であることを忘れてしまいそうです。
大仏だけじゃない、奈良には「鹿猿狐ビルヂング」がある
なんといっても「中川政七商店」奈良本店ですから、当然お買い物も存分に楽しめます。2階は、日本の工芸を生かした暮らしの道具が約3000点。この店舗では仕入れ商品は取り扱わず、ほぼ中川政七商店のオリジナルで構成されているのが特徴です。かや織ふきんなどおなじみのアイテムから、奈良の伝統工芸「一刀彫」や「赤膚焼き」の作品もありました。
ならまちを見下ろす窓辺のライブラリーコーナーには、BACH 幅さん選書の100冊をラインナップ。窓にかかるのれんや座布団も、季節によってしつらえを変えるそうです。
1階は、奈良のおみやげものや、奈良在住の作家さんの作品を販売。奈良のおみやげものってあんまり素敵なものがなかったんですが、ここなら間違いありません。
結局私はこの日、友達の出産祝いにかや織のケットとスタイとおむつカバー、実母・義母にふきんと、しっかりお買い物も楽しみました。今度は、赤膚焼きの箸置きと豆皿を買う予定です。
名前を知っているだけだった奈良の様々な工芸品を、「ほしい」と思ったのは初めて。暮らしの中で工芸品を楽しむ、という発想が自分にはなかったのだなと気付きました。
長くこの場所で商いをされてきただけあって、本当にまちに溶け込んでいて、新しい建物なのにずっと昔からここにあったかのよう。ロケーションも抜群で、猿沢池、ならまち、興福寺や東大寺などを散策して、ほっと一息つくのにぴったりです。手績み手織りが体験できるワークショップや、麻はがきづくりなど、体験系コンテンツもいろいろ。奈良観光のついででも、わざわざでも、ぜひ足を運んでほしいと思います。
奈良にこんな素敵な施設を作ってくださって、ありがとうございますという気持ち。状況が落ち着いたら、遠方に住む親せきや友人を案内したいと思います。
鹿猿狐ビルヂング
奈良県奈良市元林院町22番
0742-25-2188
営業時間/中川政七商店10:00~19:00 猿田彦珈琲9:00~21:00 㐂つね11:00~15:00(LO 14:00)17:00~22:00(LO 21:00) 茶論10:00~19:00(LO 18:30) JIRIN9:00~21:00
※新型コロナウイルス感染拡大の影響により、営業時間が変更される場合があります。詳細はHPをご確認ください。
https://www.nakagawa-masashichi.jp/shop/pages/shikasarukitsune.aspx
川内 英幸