油彩画が本当の自分に出会わせてくれた。大阪のストリートからアートシーンを横断していくツダハルトさんが描き、刻む、日常に潜む光景とこれからの自分史。
描き始める時は、頭の中に100%の完成形が鮮明にある。プロセスの段階でそこまで考え抜いてるから、途中での方向転換は絶対にないんです。
昔から絵を描くのは好きだったということですが、もし覚えている当時のエピソードなどがあれば聞かせてほしいです。
多分、幼稚園の頃から描いてましたね。字はうまく書けないけど、マンガみたいなのを描いてた記憶はあります。なぜ絵を描き出したのかは定かじゃないんですが、うっすらと覚えてるのは、幼稚園での出来事です。戦いごっことか、あるじゃないですか。数少ないおもちゃの武器をいつもみんなで取り合ってたんですが、僕は気が弱くて武器を取っても取られたりしてて。結局取り返せないまま、画用紙とクレヨンで先生と一緒に絵を描いてたんですよ。生き残る手段として、絵を選んでたのかもしれません。まぁ、その時に武器を取ってなくて良かったなと。
その時に選んだ絵を描くことが、ツダさんの今の武器になってる。巡り合わせだったのかもしれませんね。
そうですね。あとは、家の裏手にスーパーがあるので、もらってきた段ボールで家を作ったり、セロハンテープとハサミとペンを使って色々作ってましたね。仲良しのガードマンさんがいたので、「いいのがあれば置いといてください!」と伝えてて、段ボールの取り置きもしてたんです(笑)。小学校の時も美術の授業は一番テンションが上がってたし、自分でも何か作ることが好きだとわかってたんですけどね。なかなか本格的に取り組むタイミングがなくて、高校2年生の時にようやくって感じです。
段ボールの取り置きって、可愛いですね(笑)。まぁ、小学生の頃からガッツリ取り組んでたら、ひょっとすると今は別の道に進んでたかもしれませんし。ツダさんの創作の原点の話を聞いて思ったんですが、段ボールも日常的なものだし、今の作品とシンクロする部分もあるのかなと。立体作品も作られてますし。
僕は画材にはこだわってないんです。油彩画をしてるからと言ってもそれだけじゃなく、グラフィックも立体物も使えるものはどんどん使いたいタイプ。
「小学校の美術の授業は一番テンションが上がってた」と言ってましたが、今もまさにそのような感覚なんじゃないですか?もちろんスキルや思考は違いますが、創作意欲の純度は当時のままか、それ以上のような気がしました。
特に趣味もないですし、今でも無心になって描いたり作ったりできるのが、ほんとに楽しい。これは自信を持って言えます。
めちゃ素晴らしいことだと思います。ツダさんの作品は日常のちょっとしたシュールな場面を切り取ってますが、気になった場面があればそのまま絵にする感じですか?それとも、描くまでに何段階かのプロセスがあるとか?
気になった場面は頭の中で覚えておいたり、持ち歩いてるスケッチに描き残したりしてます。でも、1つの場面をそのまま絵にすることはなくて、例えばストックしてる場面のAとBがマッチすると思ったら組み合わせ、そこから構図を考える段階に。で、色味や配置するものを考えたりと、いくつもの要素が揃ってからようやく描き始めるんです。だから、頭の中が常にパンパン状態…。
1つの場面だけじゃないんですね。だから、ストーリーがより重層的になると。
はい。正直、頭の中だけでは処理しきれないし、その場面を絵だけで捉えるのではなく、言葉に変換して考えたりもしてるんです。言葉にすることで、描きたいものがより鮮明に見えるし、その作品のコンセプトも明確になってくるので。
なるほど!日常の中にある場面はツダさんの感覚で切り取り、描き始めるまでのプロセスはロジカルに思考する。右脳と左脳を両方使いながら、1つの作品を仕上げていくんですね。
自分の作品に対して何を聞かれても、ちゃんと説得力のある言葉で返せるようにしたいんです。強いこだわりを持って書いてるし、とにかくプロセスの部分はすごく考えますね。
自分の作品を自分の言葉でしっかりと伝える。これは、めちゃくちゃ大切なことだと思います。しかも、「何を聞かれても説得力のある言葉で返す」というのも、ツダさんが自分の作品の一番の理解者であり、想いを込めまくってることを物語ってる。別に理論武装してるわけじゃなくて、作品を観てくれた人との対話を大切にしてる証なのかなと。ツダさんの頭の中を覗いてみたくなりました(笑)。ちなみに描いてる時の頭の中は、どうなってるんですか?
何度も何度も考えた末に描き始めるので、頭の中に100%の完成形があるんです。その完成してる絵を思い浮かべながら描いてますね。とにかく目の前の状況に引っ張られないようにしてて、描いてる途中も部屋を歩き回りながら頭の中の絵を鮮明にすることに必死。写真としてあるくらい、くっきりとしたものが頭の中にあるんですよ。
じゃぁ、もし目の前で偶発的に「こっちもいいやん!」と思えることが起こると?
絶対にその方向には引っ張られないようにします。僕の中では「こっちもいいやん!」っていうのは、ないんですよ。それくらいプロセスの部分で考え抜いてるし、頭の中にあるものが正解だから。実は今までに何度かあったんですよ。「こっちもいいやん!」となって、その方向にシフトして描いたものの、やっぱり突発的だから完成まで辿り着けなくて。テンションで描いてしまうと、途中でやる気がなくなったりもしますし、続かないんですよね。
今の話を聞いて、改めてプロセスの部分を大切にしてるんだと強く感じました。だからこそ、自分を信じて迷いなく描ける。作品との向き合い方が、ほんとにストイックだなと。
自分自身の達成感という側面もありますが、やり切ることが評価にも繋がると思うので。しっかり考え抜いて描き上げた作品を「いいやん!」と評価してもらえると、また新たなやる気が出て次の作品制作にも力がみなぎるし。その繰り返しなんですよね。
1つの作品を描く時は、一気に仕上げていくんですか?
描き出しはワクワクして楽しいんですが、頭の中にある鮮明な絵がゴールだとしたら、そこにまだ辿り着けていない中盤あたりが一番しんどくて、そこで一旦離れますね。だから途中段階のものがけっこう溜まってます。そこから現在地を確認して、頭の中にある鮮明な絵を目指してガッツリと描き始めていく感じです。いつも自分との戦いでもありますね。
例えばツダさんの中で、「さぁ描き始めよう!」って時のスイッチは何かあります?描く前のルーティーンがあるとか。
特にルーティーン的なものはないんですが、頭の中がパンパンになると思考力が落ちるので、そうなった時はシャンプーで頭を洗ってます。制作中は、1日3回くらいのペースで(笑)。すると頭がめっちゃ回るし、シャンプーしてる時に構図を思いつくことも多いんですよ。
ツダハルト
2003年生まれ、東大阪市出身。高校2年生から油彩画を独学で始め、日常に潜むシュールな場面を複合的に構成して描く。その他にも粘土を用いた立体作品やグラフィック作品の制作を通して、鑑賞者と自身の関係性も楽しめる表現を追求。2022年に行ったポップアップをきっかけに様々な繋がりが生まれ、アーティストとしての活動が本格化し、これまでに大阪や京都、名古屋、東京などで展示を行う。スケートボードカルチャーをバックボーンにした大阪発のソックスブランド<WHIMSY>には、2024AWの様々なアイテムに作品を提供する。アンティークな雑貨やおもちゃ、昔の雑誌を収集するのが好き。