油彩画が本当の自分に出会わせてくれた。大阪のストリートからアートシーンを横断していくツダハルトさんが描き、刻む、日常に潜む光景とこれからの自分史。

1枚の油彩画の中に描かれた光景からストーリーが膨らんでいったり、立体物やグラフィック表現での印象深すぎるキャラクターに視線を奪われたり、逆に視線を感じたり。鑑賞者の色んな感情に介在する作品を生み出し続けている、アーティストのツダハルトさん。入口はユーモラスでシュールだけど、どんどんディープなシンキングタイムに突入していく。そうなっちゃうくらい、観るだけじゃなく、感じ取る、読み取ることが楽しくなる作品ばかりなのです。大阪のストリートでフックアップされた22歳のアーティストは、今何を考え、作品とどう向き合い、どんなこれからを描いているのか。頭の中にある思考と、胸の中にある想いを紐解きながらインタビューしてきました。2月14日(金)からは、京都の現代アートギャラリー『haku』で個展が開催されるので要CHECKを!彼の作品とは、じっくりと正対することをおすすめしておきます。

日常の中にあるちょっとした気まずさ、一歩引いて見た時の不思議な感覚、そんな瞬間を切り取って描いてます。その1コマの中から、前後のストーリーを想像してもらえれば。

ツダさんのバックボーンから色々聞いていきたいんですが、現在のスタイルの軸になっている油彩画はいつ頃から始めたんですか?

今から5年ほど前の、高校2年生の時ですね。学校の授業で油彩画を描く機会があり、すごくおもしろくてハマってしまいました。そこから独学で描き始めるようになったんです。

それまでも絵は描いたりしてたんですか?

いいえ。絵を描くことは昔から好きでしたが、ちゃんと描き始めたのがこの頃なんです。中学からラグビーをしてて、高校でも周りに誘われて流れで続けてました。でも、何か違うなって感じで…。

ラグビーは自分には合ってなかったけど、油彩画はマッチしたと。

自分の中でバチッときた感じでしたね。油彩画って、描きながらでも修正ができるんですよ。水彩画は繊細なものだからミスできないけど、油彩画はできる。優柔不断な性格なので、描きながら考えてアップデートできる部分が、当時の自分には合ってたんだと思います。

なるほど。油彩画の特性も含めて、そこからどんどんハマって本格的に絵を描く道に進んでいったんですね。

ラグビー部も退部して、学校でも家でも油彩画を描き続けてましたね。美術部とかには入ってませんが、学校にはいろんな画材が用意されてたし、やる気があれば応援してくれる環境だったので、半分部活的な感じで自分なりに取り組んでたんです。学校からの勧めで色んな公募展やコンテストに応募して、賞をもらったこともありましたし、その副賞の画材を使ってまた描きまくる。そんな高校時代でした。

ツダさんの中に眠ってたものが、一気にスパークした感じですね。ちなみに大学への進学は考えなかったんですか?

美大に行くためにデッサンの勉強も始めてたので、進学するつもりでした。受験もしましたけど、そこで美術の厳しさを改めて味わったというか…。第1希望は東京藝術大学の絵画専攻だったんですが、1次と2次試験はクリアしつつも最終試験で落ちてしまったんです。倍率も20倍くらいありましたし、完全に心をへし折られて、「大学はもういいわ」って。他の大学には進学せず、高校を卒業してバイトしながら描き続けることを選択しました。

油彩画を独学で始めて間もないのに、最終試験まで残ったのもすごいですけどね。

当時はコンプレックスを感じてましたけど、2年前に出させてもらったグループ展に、東京藝術大学の人も出展してたんです。その時、同じくらいの場所にはいてるのかなと思えて。今はコンプレックスとか何も思わないですし、油彩画を描きつつも自由にフラフラ動いてたおかげで、色んな人に声をかけてもらえましたから。

結果オーライというか、自分の選択が間違いじゃなかったと思える今があることは、ツダさんが努力や挑戦を積み重ねてきた証じゃないですかね。高校2年生から油彩画を描き続けてきたわけですが、自身の作品スタイルはいつ頃に確立できたんですか?

高校3年生の頃ですね。デッサンの勉強を始めたタイミングで、肉付きとか影の入り方とか、何も見ずに人が描けるようになってきて、自分が考えてるオリジナルの人物を油彩画で具現化できるようになりました。

それは早いですね。ツダさんの作品は、表情の無い人物と色んなシチュエーションを描いてますが、そこにはどんなテーマがあるんでしょうか?

日常の中にあるちょっと気まずさを感じる瞬間や、一歩引いて見た時の不思議な感覚、変な違和感を切り取って表現するのがテーマです。例えばエレベーターが開いた時や閉まる時の空気感とか、何かをしながら電話してる時の腕の角度とか。そういった瞬間を1コマで描きつつも、その前後のストーリーを想像してもらえるような絵を描いていますね。

日常にある隙というか、ちょっとシュールな場面を描いてると。あえて人物を無表情にしているのは?

僕の自己中心的な視点での他人なので、全員が同じなんです。ちょっと気まずいとか、ややこしさとかを切り取るためには、個人として見てしまうと感情がシュールさを邪魔してしまう。だから、無表情で全員が同じ人物にしているんです。

確かに人物に表情があると、描かれてるシーンの出来事を直感的に理解してしまうし、思考が引っ張られちゃう。そうなると前後のストーリーの膨らみも無くなってしまいますもんね。作品を観る側、表現を受け取る側の余白を大きくするための、ギミックなんですね。こういった日常に潜む気まずさや不思議さを描いた光景と、ツダさんはどんな時に出会ってるんですか?

犬の散歩中に見たものが多いですね。あとは街中とかでもだし、基本的に人のことをめっちゃジロジロ見てます(笑)。散歩には毎日行ってるんですが、犬を歩かせる以外は何もできないじゃないですか。だから、ゆっくりと観察しながら考え事ができるんです。家にいると絵が描けてしまうので、落ち着いて考えることもなかなかできなくて。散歩の時間は僕にとってはすごく大事ですね。

愛犬との散歩が、思考と制作を切り替える時間にもなってるんですね。ちなみにグラフィックや立体の作品もありますが、あちらはどのような位置付けになってるんですか?油彩画とはテイストも違いますし、よりキャラクター性も強いので、どんなテーマがあるのかなと思って。

グラフィックや立体の作品は、自分自身にフォーカスしてます。油彩画では日常の中にある他人のシュールな場面を描いてますが、その場面を見てるのがこの作品なんです。

ってことは、グラフィックや立体の作品はツダさんの分身的な存在であると。

そうですね。自分対他人という位置付けで、その自分側。グラフィックや立体のキャラクターを通して僕が他人を見てる、そんな考え方で作ってます。

油彩画とグラフィック&立体でアウトプットの表現は違うけど、作品としては関係性が成立してたとは。ギャラリーとかで展示の際は、その視点で作品を観るとさらに楽しく想像を膨らませそうですし、実は鑑賞者側も見られてるってことなのか!おもしろいですね。勝手に感情移入しちゃいそうですが、このキャラクターに名前はあるんですか?

よく聞かれるんですけど…、名前はないんですよ。だから、ちょっと困ってます(笑)

描き始める時は、頭の中に100%の完成形が鮮明にある。プロセスの段階でそこまで考え抜いてるから、途中での方向転換は絶対にないんです。
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Profile

ツダハルト

2003年生まれ、東大阪市出身。高校2年生から油彩画を独学で始め、日常に潜むシュールな場面を複合的に構成して描く。その他にも粘土を用いた立体作品やグラフィック作品の制作を通して、鑑賞者と自身の関係性も楽しめる表現を追求。2022年に行ったポップアップをきっかけに様々な繋がりが生まれ、アーティストとしての活動が本格化し、これまでに大阪や京都、名古屋、東京などで展示を行う。スケートボードカルチャーをバックボーンにした大阪発のソックスブランド<WHIMSY>には、2024AWの様々なアイテムに作品を提供する。アンティークな雑貨やおもちゃ、昔の雑誌を収集するのが好き。

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