ずっと物足りない、つまらない。「満たされなさ」を推進力にするアーティスト・きゃらあいの未来。

大きな瞳の女の子と、パステルカラーのファンシーな世界観が魅力のアーティスト/イラストレーター・きゃらあいさん。若干13歳からインターネット上で活動を開始し、現在は国内のギャラリーのみならず韓国や中国でも展示を行うなど、気鋭のアーティストとして注目を集めています。2020年に拠点を大阪から東京に移し、活動の幅はますます拡大中。パークホテル東京では客室が丸ごとアート作品になるアーティストルームを制作するなど、傍からみればまさに絶好調ですが、ご自身は「ずっと、物足りなさがあるんです」とのこと。これだけ活躍していながらなぜ?という疑問や、表現する理由、作品に込めた思いなどなど、きゃらあいさんを大学時代から知る金輪際セメ子がインタビューしてきました!

絶対に、絵では食べていかないって思ってました。逆張りしてたんです、ひねくれてるから。

壁面いっぱいにきゃらあいさんの作品が描かれていますが、このお部屋は、いま制作中のアーティストルームなんですよね?

開催中の「『Kawaii』だけじゃない!」展のアーティスト・イン・レジデンスとして、3409号室の壁に作品を描いてます。6月くらいから制作を始めたんですけど、なんとか11月17日までの会期中には完成させたいです。

パークホテル東京で開催中の「『Kawaii』だけじゃない!」の一環として、きゃらあいアーティストルームを制作中。

絵が完成したら、きゃらあいルームができるんですね。きゃらあいさんと言えば、かわいい女の子の絵というイメージがありますが、まずはアーティストになったきっかけから教えてください。

きゃらあいの名前で絵を公開するようになったのが、中学生の頃なんです。中1くらいから、女の子のイラストを描いてネットにあげてたんですね。高校は港南造形高校っていう絵画も工芸もできる学校で、そこの卒業制作でもイラストを描きました。その頃までは、ただかわいい、わかりやすい絵を描いていてたんですけど、たまたまネットで、女の子が描かれてるけどわかりづらい絵とか、感情が爆発してるような女の子の絵を見て、こっちのほうがいいなって思って。手ざわりの良いキャラクターの絵も好きなんだけど、もうちょっと違う絵を描きたいなって思い始めた最初ですね。

それまではかわいい女の子のイラストを描いていたけど、ちょっと違うものを描いてみたくなったと。

イラストも描くけど、ちょっと違うのがいい、みたいに思って。大学に進学するときも、美大の日本画科とかイラストの専門学校とかいろいろ見たんですけど、結局は絵を描かないアートプロデュース学科にいって。そこでアートを学びながら、展示活動を本格的に始めたっていう流れです。

部屋の窓からは東京タワーが一望でき、「イメージは空中公園みたいな感じ。ここの作品は、ストレートにかわいい、楽しいを表現しています」

中学生で絵を発表するようになった頃から、将来はアーティストになりたいという気持ちはありました?

それが、絶対に絵では食べていかないぞって小中学生の頃は思ってて。小さいときから、絵が得意っていうのはあったんですよ。でも、絶対に絵では食べていかないって逆張りしてたんです、ひねくれてるから。高校も普通のところに進学するつもりで、友達が美術系の高校に行くって聞いたときも、え…って若干引いてたくらい。でも、同級生にすごい面白い男の子がいて、その子が港南造形に行くっていうのを知って、本当にめっちゃ面白い子だったので、一緒に行こうかな…って(笑)

なりたいどころか、ならないって決めてたんですね。

アーティストになるぞ!とか、絵の仕事をするぞ!とかは思ってなかったですね。大学で制作系ではなくアートプロデュースのほうに行ったのも、普通じゃ嫌だっていうひねくれた部分があって。絵は高校時代から描けていたので、それよりコミュニケーションを学んだほうが将来的にはいいのかなと思ってました。

韓国のギャラリー『SHABI WORKSHOP』と制作した、きゃらあいさんの作品を立体化したアートトイも展示。

絵では食べていかないぞと思いながらも、今は結果としてそれが仕事になっているというのは、どういう流れで?

大学3回生くらいまでは、普通に就職するつもりだったんです。先生にもそう言ってたんですけど、でも途中からやっぱり嫌だなと思い始めて。そのときに、大学にセメ子さんたちが来てくれたじゃないですか。

アートプロデュース学科の研究発表会を見に行かせてもらって。

そこでお会いして、なんか面白そうだなと思って。就職は考えてないけど、こういう面白そうな人がいる会社なら、関わっているうちになにか見えるかなと思ったんですね。それで、アルバイトをさせてもらうようになって。

うちの会社で、企画とかデザインの仕事をお手伝いしてもらってましたね。

そこがあったから、4回生になってみんな就職活動してる中でも私は何もせず。ちょうどその頃から、ちょっとずつ描きたいものが定まりつつあったので、展示活動をするようになりました。

描きたいものが定まってきたというのは、ただかわいいだけのイラストではなくて、もう少し心をざわつかせるようなもの?

そうですね。当時なにを考えてたのかあんまり思い出せないんですけど。でも、とにかく描いてました。展示の予定をたくさん入れて、それに向けて描いて、うまくいってるかどうかはわからないけど展示してっていう。もともとはデジタルで描いてたんですけど、この頃から絵具で描くようになって。絵具で描くにあたって、アートっぽいものに憧れもあったので、ちょっとぐちゃってしたほうがいいのかなみたいな(笑)。試行錯誤して、自分の絵ってなんなんだろうって思いながら描いてました。

デジタルとアナログでは、どういうところが違いますか?

デジタルだとパソコンとかペンタブなので手を動かすだけなんですけど、アナログはある程度体を動かしながら描くじゃないですか。いったん置いてちょっと離れて見たりとか、そういうのがあるから、感覚が全然違います。いろいろ模索してた大学時代に、もっと身体表現したい、もっと体を動かして表現したいと思ったことがあって。大きい布を木枠に貼らずに広げて描いて、最後は棒に付けて振る、みたいなこともやってました。

それは、自分が表現したいものをどういうカタチでアウトプットするのがいいのかなっていう模索?

どうなんだろう。なんかでも、物足りないみたいな。物足りないから、いったん体を動かして描いてみるか、みたいな感じだったんだと思います。

ただ絵を描いているだけでは物足りなくて?

私の行動の原理に、ずっと物足りなさみたいなものがあるんです。大学も制作系じゃなくてあえてプロデュース系にいったり、デジタルでうまくいってたのに絵具で描きはじめたりしたのも、そういう考え方があったからなのかなと思いますね。それは今でもそうで、なんかつまらないなみたいな。ぜんぜん暇じゃないのに、暇だなみたいな。

現状に満足しないというか、もっと何かあるんじゃないかっていう気持ちが。

最近は、例えばこういうふうになりたいとか、こういう仕事をしたいと思っても、やってみるとまた物足りなくなるんだろうなって思うと虚無感が出てくるから、そこはちょっと治したいなと思ってます。でも、なにをしたら満たされるんだろうっていう気持ちはずっとありますね。

昔は自分が思っていることと全く違う解釈をされると、全然伝わってない!ってやっぱりムカッとすることもあったんですよ。
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Profile

きゃらあい

大阪府出身、京都造形芸術大学(現:京都芸術大学)アートプロデュース学科卒業。『ゆらぎの中にいる自覚』を主なテーマとしている。SNSで多様な価値観に触れられる時代、さまざまなものを吸収して、何が正しいのか、自分の意見や属性すらも分からなくなる浮遊感が自身の中に根強くあり、作品制作はそれを受け止める器にもなっている。幼い頃に親しんだ少女漫画のような大きな瞳や、ファンシー雑貨のような色彩など、独自のキャッチーさで鑑賞者を引き込み、描かれた人物と対話ができるような作品づくりを続けている。

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