大阪・粉浜のアートギャラリー『opaltimes』を営む内田ユッキさんの、人生をもっと楽しくするポジティブでしなやかなスタイル。
住吉大社のお膝元、粉浜の住宅街にひっそりたたずむアートギャラリー『opaltimes』。こちらを運営する店主の内田ユッキさんは、2児のママであり、自身もペインターとして活動する作家さんでもあります。ユニークなテーマや他ではあまり見かけない作家さんの組み合わせ……、遊び心溢れるコンテンツに惹かれて、ずっと気になっていた『opaltimes』さんにお邪魔してお話を聞いてきました!初めてお会いした内田さんは、とってもポジティブで温かくて、包み込んでくれるような優しさとアートへの情熱を秘めたすてきな女性でした。変化するライフステージの中で、大好きなアートに触れられる場所を自らの手で作ろうと決心した彼女。アートに興味を持ったきっかけやギャラリーを作った経緯、今後の展望などをお聞きしました。ぜひ読んでみてください!
ママになっても大好きなアートを楽しみたい!そんな気持ちに突き動かされて生まれたのが『opaltimes』でした。
ギャラリーの店主とペインター、二足のわらじで活動する内田さんですが、アートの楽しさに目覚めたきっかけは?
子どもの頃は文章を書いたりお話を考えたりするのが好きで、人文学科のある中之島の高校に通っていました。ただ、ちょっと頑張って入ったこともあり、次第に勉強についていけなくなったんです。そんな時、大阪芸術大学を卒業後すぐに着任した美術の先生に教えてもらい、いろんなアートギャラリーを巡るようになりました。それが高校2年生の頃だったかな。先生との出会いをきっかけに私自身も絵を描くようになって、アートの楽しさを知りました。卒業後は芸術関係の学校に進学しようと考えたのも、その先生がいたからです。
ちょうど進路について考えるタイミングで、すてきな出会いをされたんですね。
先生とは年齢も近かったし授業もおもしろくて。バイトのない放課後は、制服から私服に着替えて路上で絵を売ったりとかもしてました。天王寺の歩道橋がすごくボロボロだった時代で、当時はそこで自分の作ったものを売ってる人が結構多かったんです。私もそれに混じってお小遣い稼ぎをしていました。
どんな絵を描いていたんですか?
もっぱら似顔絵でしたね。電車通学だったんですが、その間にも向かいに座っている人を描いたり道端にいる人を描いたり、絵を描くのが楽しくて夢中で描いていました。
大学時代はどんな風に過ごされたんですか?
当時あった成安造形大学の短大に進学して、デザイン学科でイラストレーションを学びました。たくさん勉強したっていうよりは、学校外で楽しく遊ぶ方が多い学生時代でしたね。卒業後は、クレジット会社に勤めながら、夜はアメ村の三ツ寺会館にあるバーでバイトをしていました。<オシリペンペンズ>のモタコさんとか<赤犬>のイトウさん、<夢中夢>の依田くんとか、スタッフにバンドマンが多いお店で、音楽関係の友人もたくさんできました。4、5年そんな生活を続けて26歳で結婚し、すぐに子どもが生まれたので、しばらく家庭に入って子育てに専念していました。
その頃も絵を描いていたんですか?
社会人時代は、築港赤レンガ倉庫にあった『アーツアポリア』のアトリエアーティストとして所属しながら、さまざまな展覧会に作品を出展していました。出産後もたまに描いてはいたけど、それまでに比べると全然時間が取れなくて。子どもが小さいとギャラリーの展示もなかなか見に行けないし、行けたとしても子どもが途中で泣いちゃって集中できなかったりとか。その時期は夫の出張が多くて、それについて行ったりもしていると、馴染みのお店に全然行けなくなってしまって。それまで自分の好きなように過ごしてきて、誘われた展覧会には全て参加するくらいパワフルだったんですが、急に子育てが生活の中心になりました。
なるほど。家族を優先する生活に切り替わったと。
家族で過ごす幸せを感じながらも、多くの人と関わる以前までの生活とは180度違っていて、そんな毎日にちょっとだけ孤独を感じていたんです。私がギャラリーを開いたのは、そんな日々を変えたいと思ったから。自分で足を運ぶのが難しいなら、スペースを用意して気になっている作家さんに来てもらえばいいじゃないか。自分なりの切り口でおもしろい企画を考えてみようと。そんな風にスタンスを切り替えて、2016年にギャラリーをスタートしました。
自分が行けないなら、自分のもとに来てもらおうと。とってもポジティブですてきな考え方ですね。展覧会のビジュアルもかわいくて、いつも注目しています。
そうそう。全部じゃないけど、DMを見てもらおうと思って持って来たんです。DMのデザインは、数年前からグラフィックデザイナーのurisakachinatsuさんにお願いしています。彼女との出会いも印象的でした。学生時代に展示を見に来てくれた際、レコ屋のCD用ショッパーを持っていて。最近の子ってCDを買うイメージがなかったから、何を買ったのか気になって聞いてみたんです。そしたらThe Beta Bandの『The Three E.P.’s』という大好きなアルバムを持っていて、それをきっかけに「これを聴くんですね!」と意気投合しました。インスタを教えてもらって覗いてみると、作っているデザインもかわいいしおもしろい活動をしていて。そこからお仕事を依頼するようになりました。今は東京に住んでいますが、変わらずDMのデザインをお願いしています。
偶然の出会いだったんですね。ちなみに内田さんが作家として参加される場合もあるんですか?
出展作家さんに誘っていただいたら参加する場合もあります。直近では、今年4月末から5月初めまで実施した「こねこねドリームアイランド」に参加させてもらいました。手のひらサイズの立体物の展示をテーマにしていたんですが、普段から親交のある大阪在住の作家さんが結構多くて。最初は参加しない予定だったんですが、ミーティング中に「内田さんも一緒にやりましょう」と誘ってくださって、そう言っていただけるならと私も出展することにしました。若い作家さんは私がもの作りすることを知らない方も多くて、ギャラリーの店主として考えている方もたくさんいると思うけど、私を昔から知っている同世代の方は作家として見てくれるのが嬉しいなって思います。
「こねこねドリームアイランド」、私も行きたかったです。インスタで見ていてすごくかわいいなって思っていました。
私もそうですが、この時の出展者は、普段イラストレーションをメインにしている方が多いのですが「手のひらサイズの立体物を作りたいよね」という時期と意見が一致して、それに共感するメンバーを集めました。島の形にカットした天板の上にみんなの立体物を並べて、売れたら島を脱出できるサバイバル的な設定にしています。
めっちゃおもしろい設定(笑)。普段はイラスト中心の作家さんが手がける立体物というのもキャッチーですね。展示のタイトルやそういった設定はどうやって考えてるんですか?
こちらから提案する場合もあるけど、大体は作家さんとのミーティングで決めます。最近どんな作品を制作して、どんな活動をしているのか細かくお伺いして、出展者さんと一緒に言葉やアイデアを出し合っています。何時間もかかる場合もあるけど、すぐに決まっちゃう場合もあって色々ですね。
例えば、「つれていって・押さえないで」というタイトルは?
作品を観たりライブハウスで演奏を聴いたりした感想で、“つれていかれた”とか“持っていかれた”みたいな感想を聞くことがあるんですが、そのつれていかれる先って一体どこなのかなって考えて。その答えを知りたくて、惹き込むパワーが強いと感じる作家さんを集めた企画を行いました。
8月4日まで開催中の展覧会「清涼な緑の風が頬を撫でるような感じ」はいかがでしょうか?
この展覧会は、野草と番茶をブレンドした野草番茶で知られる島根の『かみや園+』さんとの共同企画です。『かみや園+』さんのお茶のイメージを絡めつつ、“清涼な緑の風が頬を撫でるような感じ”の展示をやりたいなぁって言っていたら、それがそのままタイトルになりました。『かみや園+』さんのお茶からイマジネーションを得て、土、水、虫、夜の暗さなどを感じる5人の作家さんを集めています。出展作家さんにパッケージを依頼した限定デザインの野草ブレンド番茶も販売していて。期間中は、店内のカウンターで冷たい冷茶も楽しめるんですよ。
とってもすてきな企画ですね。展示をお願いする作家さんはどうやって見つけているんですか?
やっぱりSNSが中心ですね。いつかお誘いしたいと思っている作家さんのSNSをスクリーンショットして、常に500人ほどストックさせていただいてます。それをずっと眺めて、「今年はこの人を絶対呼びたい!」と思った方を軸に、その作風に合いそうな方をストックの中から探すことが多いです。エリアには特にこだわらず、オンラインでミーティングをして初めて拠点を知ることも多いです。
でしたらSNSはかなりチェックしてらっしゃるんですね。
以前は絵画をメインにしてたけど、最近立体物を始めたぞとか版画を始めたぞとか結構こまめにチェックしています。前と雰囲気が違う作品を制作されていたら、それも随時確認していますね。
店主として企画・運営のみに徹する場合と、ご自身もアーティストとして展示に参加される場合、イベントを開催するにあたって気持ちの違いはあるんですか?
普段は裏方仕事で手いっぱいなので、作品を制作する時間が取れるのかなという不安はありますね。だけど、「こねこねドリームアイランド」に参加したことで、せっかく持っている自分の能力を生かさないのはもったいないと思うようになって。自分と同じイラストレーションを軸にした作家さんとご一緒したことで、界隈の方に見ていただけたのか、展覧会を終えてから急にイラスト関係の仕事の発注をいただくようになったんです。私の描いたものも需要あんねやと思って、自然と絵を描く時間が増えてきました。
すてきな感性をお持ちなので、ぜひ表現の場を設けてほしいです。
とりあえず、自分のことを24時間無料で描いてくれるイラストレーターとして考えることにしました(笑)。商品のギフトラッピングに使う包装紙のイラストを描いたり、ちょっとしたイベントごとのチラシを自分でパパッと描いて作ったり。今はそれが楽しくて、自分の中のちょっとしたブームになっています。ここへ来て、イラストレーターになりたいなと思うようになりました。自分を「イラストレーターです」と言えるようになることが直近の目標です。
内田ユッキ
大阪府出身。アートギャラリー『opaltimes』店主、ペインター。高校時代から絵を描き始め、会社勤めや結婚、子育てなどを経て2016年に『opaltimes』をオープン。自主企画をメインに、個展やグループ展を実施する。プライベートでは2児の母親。
opaltimes(オパールタイムス)
大阪市住之江区粉浜1-12-1
月木金13:00〜17:00、土日祝13:00〜19:00
(展覧会期中のみ営業)
不定休