ヒロ杉山さんが、関西で初となる個展を開催!広告・デザイン業界のトップランナーが密かに描き続けたドローイング作品の軌跡と、これからのこと。【後編】

昨年11月に、25年に渡って描き続けたドローイング作品を収めた作品集「Drawing leads to another dimension」を出版したヒロ杉山さん。六本木ヒルズで開催した個展は大盛況の末に会期を終えましたが、その巡回展が大阪・北浜の『ASITA_ROOM』で6月20日まで行われてます。前編では個展の概要や作品集の誕生秘話などを伺ってきましたが、後編ではアーティストとしてのスタンス、クライアントワークとライフワークの関係性、個展の詳細、これからの目標など、大阪での開催を仕掛けた『アシタノシカク』の大垣ガクさんと共にさらに踏み込んだ内容をインタビュー。ヒロ杉山さんの描くことに対する圧倒的熱量を、少しでも感じてもらえればと思います。そして、関西で初の個展は6月20日までなので、25年間の軌跡となるドローイング作品をぜひ間近で楽しんでください!!

いろんなことが自粛になってるけど、こんな時だからこそ表現することを大切にしたかった。それが、アーティストのやるべきことだなと。

コロナ禍によって過去の作品を振り返ることができたと伺いましたが、実際に見返した時はどんな気持ちでしたか?

ヒロ杉山:約2000点もあったので正直25年ぶりくらいに見る作品もありましたが、どれもしっかり覚えていたんです。どんな時に描いたとか、どんな気持ちだったとか、ひとつひとつの絵を見ながらその時の情景を思い出せたのが自分でも不思議でしたね。やっぱり描く時は集中していろんなことを考えながら描くから、自然と脳にインプットされていたり、焼き付けられているのかなと。「こんなの描いたっけ?」というのは、ほぼなかったですね。

大垣ガク:作品はわが子のようなものだからこそ、覚えてるんですね。約2000点の作品をまとめたからこそ作品集が生まれ、今回の個展にもつながったと思うんですが、そこでの心境の変化はありますか?

ヒロ杉山:約2000点の中から1200点をセレクトして作品集としてまとめたので、なんだか気が済んだというか、作品自体が過去のものになったというか。これまで倉庫の中の作品がずっと気になってモヤモヤしてたので、日の目を見せてあげられて良かったですね。夜中にコツコツ描いてたものは誰にも見せてないものだし、作品集や個展というカタチで人目に触れることができたので、自分の気持ちもスッとしたし、これでまた次に進めるなという感じ。

作品集「Drawing leads to another dimension」より。25年に渡るスタイルの変遷が、作品集でも個展でも楽しめます!

ずっと気になってたことがスッキリして、またまっさらな状態になった感じですね。

ヒロ杉山:そうですね。自分的には、「やっと片付いた」って感覚もありますけど(笑)。コロナ禍で時間が空かなければできなかったし、制作にも3ヶ月ほどかかりましたからね。

大垣ガク:コロナ禍での時間をうまく使えたからこそですね。他には何か取り組んだりしたんですか?

ヒロ杉山:最初の頃は料理をしたり、ドーナツを作ったりしてたんですけど、だんだん何やっていいか分からなくなってきて。でも、このままじゃ悔しいし、コロナ禍という今まで体験したことのない時間を逆手に取れないかなと思ったんです。暇でいることに慣れてなかったから、何か始めなきゃって感じでした。

大垣ガク:すごい大仕事が見つかりましたね。それに、アーティストだからできることですし。

ヒロ杉山:いろんなことが自粛になってるけど、こんな時だからこそ表現することを大切にしたかった。これは自発的なことだし、クライアントワークでもないから、アーティストがやるべきことだなと思ったんです。

『エンライトメント』としてのクライアントワークと、アーティスト・ヒロ杉山としてのライフワーク。この2つがあるから、何かを生み出すことに対して健全でいれる。

夜中にコツコツ描いてたと伺いましたが、作品は毎日描き続けてたんですか?

ヒロ杉山:日中は『エンライトメント』としてのデザインの仕事があるので、自宅に戻ってからほぼ毎日描き続けてましたね。まぁ、それは今でも変わらないですけど。以前は朝方まで描いてたんですが、今はさすがに疲れも溜まっちゃうので2時には寝るようにしてます。でも、描き出すと頭がどんどん冴えてしまって、ついつい3〜4時までやってしまう。自分で自分を制御するのが、けっこう大変なんですよね。

大垣ガク:気持ちがノって来ると止まらないですよね(笑)。ついつい、あれこれ試行錯誤したくなりますし。

ヒロ杉山:昼間はデザインの仕事もあるし、打ち合わせや電話がかかってきたりもするので、集中して描けるのがどうしても夜中になってしまうんです。

大垣ガク:しかも、休日になればさらに捗るという…。

ヒロ杉山:ホントにそう。土日は会社に出て描いたりしてますからね。

それもクリエイターあるあるですね。何かを生み出すということについて質問なんですが、ヒロ杉山として作品を描くことと、『エンライトメント』としてデザインすることでは、生み出すものに対する向き合い方の違いってありますか?

ヒロ杉山:僕の場合、クライアントさんから受けてそれに応える仕事と自発的に制作することが常に同居していて、そのバランスを取りながら30年間やってきました。クライアントワークだけでも生きていけるけど、ライフワークがないと生きてはいけないカラダになってるんです。クライアントワークすることでライフワークにもフィードバックがあるし、もちろんその逆もあるから、何かを生み出すことにおいてはすごく健全な状態。ただ、ベクトルは全く違いますね。

大垣ガク:なるほど。どう違うんですか?

ヒロ杉山:クライアントワークに関しては、クライアントさんが120%満足するものを生み出すのがゴール。例えば、いろんなことを加味して赤色に仕上げた方が売れるものになるのに、カッコいいからという自分のエゴで青色に仕上げることはしない。あくまでもクライアントさんの目的達成のために、自分の力を使うことが大切だと思ってます。一方、ライフワークは自分自身がとことん満足するものを突き詰めていくだけ。僕の場合、ライフワークで自由に表現してるから、生み出すことにおいて常にバランスが取れている状態なんです。

クライアントワークを自分の作品化させないってことですね。両方で力を出し切り、それぞれを生かし合える状態だからこそ、健全。すごく理想的だと思います。

ヒロ杉山:そうですね。だから、僕にとっては両方がとても大事だし、いつも同じくらいテンションが上がるんですよ。

大垣ガク:それに、ヒロさんは元々が絵を描く人だからこそ、その両輪のスタイルが可能なんですね。しかも、それぞれをここまでの密度とクオリティで仕上げて、ずっと続けているからスゴイ!

ヒロ杉山:単純に倍の時間がかかるので、命を削りながらやってる気がしますけどね(笑)

作品集「Drawing leads to another dimension」より。

大垣ガク:確かに、言葉で言うのは簡単ですが、その通りですよね(笑)。僕自身はアーティストではないですが、『アシタノシカク』としてのクライアントワークと、『ASITA_ROOM』としてのプロジェクトワークという関係性が、ヒロさんのスタイルと少し似てるのかなと改めて思いました。

ヒロ杉山:同じだと思いますよ。『ASITA_ROOM』というスペースがあることで大垣さん自身はもちろん、関わる人みんなが刺激し合えるんじゃないですかね。

大垣ガク:そう言っていただけてうれしいです!ありがとうございます!!

残りの人生どれだけあるか分からないけど、後2000点は描きたい。だから、描けるところまで描き続けるだけ。

個展の内容についても伺いたいんですが、その前に。ヒロ杉山さんは国内外で作品を発表されてますが、関西のアートシーンについて少し聞かせてください。

ヒロ杉山:僕が初めて関西に来たのが…、実は大阪万博なんです…(笑)

大垣ガク:え、マジですか!?

ヒロ杉山:そう、1970年です(笑)。その次は30歳の頃で、VJもしてたのでテイ・トウワ君のイベントに同行して来るようになり、最近では『UNKNOWN ASIA』の審査員や大学の授業のためによく来てます。印象としては、アートに関わる人の密度が東京よりも濃いなと。例えば、大垣さんとつながるとアノ人やコノ人ともつながるような感じ。東京はつながりがもう少し分散されてる感じだけど、関西はその密度がおもしろいし、アーティストさんも同様におもしろい人が出てきてると思いますね。ただ、これは関西に限ったことじゃないですが、アートシーンの盛り上がりとアートを手に入れるという行為はまた別で、海外と比べるとまだまだ。

大垣ガク:今はコロナ禍によってお家で過ごす時間が増えたことで、アートを購入する人も少しずつ増えてはいるようですが、やはり海外と比べると…って感じですね。

ヒロ杉山:アートを手に入れることは、世の中にひとつしかないものを手にするわけだから、実はすごく魅力的なこと。有名無名に関係なく、自分の気に入ったものを自分の感覚で手にするようになれば、もっと素敵な体験ができると思う。

大垣ガク:『ASITA_ROOM』でもいろんな企画展をしてきましたが、作品を購入された方のお話を聞いていると、一つ思うことがあるんです。作家さんの作品と向き合ってるだけじゃなくて、自分の気持ちとも向き合ってるなと。作品を手に入れることは、「私はコレが好きなんだ!」という自分の気持ちに向き合ってるんですよね。それは自分自身を発見することでもあるし、そんな時間を経験することはすごく豊か。今の時代っていろんな情報があふれて時間だけがただ流れてしまう時もあるから、立ち止まって自分と向き合うという行為をする上では、アートはとても適したものだなと思ってます。

アートに触れて、手にすることで得られる体験や発見は、ある意味では種のようなもので、そこからまたいろんな実りが生まれるのかもしれませんね。そういった点で言うと、やっぱりアートは文化やリテラシーも含めて醸成していくものだなと。

ヒロ杉山:以前、大好きなドイツの作家の展覧会を現地に見に行ったことがあるんですが、衝撃的な光景を目にしたんです。美術館の床に幼稚園児くらいの子たちが10人ほど座って、先生と絵について話し合ってました。現代美術のすごく前衛的な絵の前で、「この赤が好き」とか「この丸いカタチがおもしろい」とかってね。しかも、美術館の床に座ってるのに誰も何も言わないし、それが当たり前のような状態。その光景を見て、日本はまだまだだなと思ったし、こういった環境が大切なんだなと実感しましたね。

大垣ガク:やはり、ドイツはアートシーンだけじゃなく、環境においても一歩先に進んでる感じですね。今回のヒロさんの個展も原画の展示に加えて、日々描き溜めたノートも実際に手に取って見てもらえるので、環境という点でも理想的だなと僕自身は思ってます。

ヒロ杉山:そうですね。ドローイングの作品も飾りますが、ずっと書き溜めていたノートが何十冊もあるので、その一部を展示させてもらってます。手に取って自由に見てもらえるので、楽しんでもらえればなと。

日々書き溜めていたノートがこちら。手描きのラフスケッチなど、アイデアの源泉がかい見えます。

大垣ガク:六本木でも展示されてましたが、ヒロさんのノートを自由に見れること自体、とても貴重だと思います。

確かに。作品のアイデアの源泉というか、ヒロ杉山さんの頭の中が垣間見れるというか、ノートをめくりながら次はどんなものが描かれてるんだろうって、見る行為の楽しみがすごく深いような気がします。ちなみに、ドローイング作品は何点くらい展示されているんですか?

ヒロ杉山:約2000点の中から80点ほどセレクトして展示しています。1995年から2020年までのものがメインですが、それ以前に描いてた作品もあるので、じっくり楽しんでいただければと。

大垣ガク:ヒロさんのスタイルの変遷もそうですし、当時の制作背景が読み取れる作品のサイズ、そして、ミステリアスな新作のブラックドローイングシリーズなど、とにかく見所が満載です。個展は6月20日(日)までで、19日と20日はヒロさんも在廊されるので、皆さんぜひ!

ヒロ杉山:ドローイング作品以外では、ライフワークとして続けてるZINEも一部展示しているので、そちらも合わせて楽しんでください。お待ちしてます!

ヒロ杉山さんのライフワークの一つでもあるZINE。2010年から『エンライトメント』が企画&キュレーションを行い、展覧会『Here is ZINE』を開催している。

ドローイング作品にノート、ZINEまで、ホント贅沢な展示内容ですね。関西の皆さん、この機会にぜひ足を運んでもらえればと思います。それでは最後に、アーティストのヒロ杉山として、今後の目標を聞かせてください!

ヒロ杉山:目標と言えるほどの大それたことじゃないですが、僕は今58歳です。これまでにイラストレーションを含めて2500点くらいの作品を描いてきましたが、残りの人生は……後何年あるかなと…。

大垣ガク:そこは、できるだけ長く(笑)

『ASITA_ROOM』で開催中のワンコーナーより。ドローイングの原画を間近で見れるのは、とても貴重な体験になると思います!

ヒロ杉山:残りの人生を考えた時、後どれくらい描けるかなと思っていて(笑)。少なくとも後2000点は描きたいなと。歳を重ねるごとに描くスピードも、イメージが湧き出るスピードも速くなっているんですが、実は今、そのイメージに対して手が追いつかない状態。「描きたいものがこんなにもあるのに!」って感じなんです。

大垣ガク:スゴイ!まさに時間との戦いというか、人生をかけて描き続けるって最高だと思います!

ヒロ杉山:だから、描くことに対して不安感は全くない。描けるところまで描き続ける、それが目標でもあり、アーティストとしてもそこに尽きるなと思ってますね。

絵に対するそうした熱量が、今回の展示でも伝わってきました!2000点と言わず、それ以上の作品が生み出されることを楽しみにしてます!!今日はありがとうございました!



『ASITA_ROOM』で開催されているヒロ杉山個展「ドローイング1995-2020」は、6月20日(日)まで!25年の軌跡となるドローイング作品や日々描き溜めたノート、ライフワークの一つであるZINEが展示された関西初の個展なので、ぜひ間近で見て&手に取って見て楽しんでください。6月19日(土)と20日(日)は、ヒロ杉山さんも在廊しているため、作品についてのお話が聞ける機会もあるかもです!!


<個展情報>
ヒロ杉山個展「ドローイング1995-2020」
期間/2021年6月5日(土)〜6月20日(日)
会場/アシタノシカク『ASITA_ROOM』 大阪市中央区北浜東1-12 千歳第一ビル2F
時間/平日15:00〜21:00、土日15:00〜19:00 入場無料
作家在廊日/6月5日(土)、19日(土)、20日(日)
https://www.instagram.com/asita_room


Profile

ヒロ杉山

アーティスト/グラフィックアートユニット『エンライトメント』代表。ファインアートの世界において国内外の展覧会で作品を発表する一方、グラフィックデザインや広告などの幅広いジャンルでも独創的な作品を発表し続けている。

http://elm-art.com/

Profile

大垣ガク

アシタノシカク株式会社代表。アートディレクター・クリエイティブディレクターとしてCI、VI、広告企画・デザイン、WEBなど、コンセプト及び視覚コミュニケーション全域に携わる。近年は空間デザイナーとして、アートとコミュニケーションデザインを統合した空間デザインも多数手がけている。

http://www.asitanosikaku.jp/

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