再降臨した「心斎橋PARCO」が、ミナミにアート&カルチャーの火を点ける! その②

2020年11月20日は、心斎橋にPARCOが帰って来る日! PARCO不在の9年間、ミナミはなんとなく大人しかった気がします。「アート/カルチャー」をテーマのひとつに掲げる新生『心斎橋PARCO』は、そんな大阪にあって、文化の発信基地としての機能も期待される存在。その記念すべきオープニングを飾る3つの展覧会を、取材してきました。

トム・オブ・フィンランドは、ダイバーシティもLGBTQも70年前から。

10階イベントスペースで開催される「Reality&Fantasy The World of Tom of Finland​」は、ゲイを描いたアートでLGBTQの権利を訴えたフィンランドの作家トム・オブ・フィンランドの日本初の個展。LGBTQコミュニティのみならず、アート界でも影響のあるトム・オブ・フィンランドのオリジナル作品30点が展示されます。生誕100周年にあたる記念すべき年に開催されるこの個展について、企画を担当された小林大介さんにお聞きしました。

心斎橋PARCOのオープニングにこの企画を選ばれたのは、どんな理由から?

パンチがあるからと言うと短絡的ですが、オープニングで我々の決意を街にしっかり伝えたい、という気持ちがありました。PARCOが心斎橋を離れている期間が9年ほどあって、またゼロからかもしれないけど、この街の一員になりたいなと思って。PARCOらしさを持って、心斎橋の街と大阪・関西に対して、ラブレターを出した感じです。

会場のエントランス。右奥に見えるトムの写真は、親交があったメイプルソープが撮影したもの。

またこの街で、文化や情報を発信していくという決意表明のような。

そうですね。それと、日本も遅ればせながら、LGBTQの権利や、SDGsのなかでダイバーシティがようやく認識され始めた。これらの作品は他者を認めるということの象徴的な存在なので、ゲイアートというくくりではなくて、自分と違うものも見てみたら面白いし、新しい発見があるよというメッセージが、社会的にも今なら気持ちよく伝わるんじゃないかという想いもありました。

真ん中の作品『Portrait of Pekka』は、展覧会の開催を記念したオリジナルグッズにも展開。

企画がスタートしたのは、いつ頃からですか?

1年ちょっと前ですね。イギリス人キュレーターのシャイさんが、LAにあるトム・オブ・フィンランド財団の人とつながって、日本で展示をやりたいねっていう話になったらしくて。過去に財団も日本でやろうとしたんですが「Too Gay」だと実現しなかったそうなんです。僕はMoMAでトムの作品を初めて見たので、国立とか公立の美術館でやるクラスの作家だと認識していたのですが、でも保守的なところが許さなかったのか、実現しなかったと。そこへ、芸術系の助成金などを出している財団がシャイさんに、「PARCOならいいんじゃない?」とアドバイスをしたらしく、いきなり知らない外国人から電話がかかってきました。

PARCOでトム・オブ・フィンランドの個展をしないか?という電話が。

最初は詐欺だと思いましたよね、嘘でしょ!?って。(笑)。でもトム・オブ・フィンランド財団のダークさんを紹介されて、全面的にサポートするからと言われて、これは本当だなと。

トムの作品は、海外ではアート作品として認められているんですか?

名前のとおりフィンランド出身の作家ですが、彼が作品を描きはじめた時代、フィンランドでは同性愛は法律で禁止されていました。社会的にじゃなくて、法的に許されなかったんです。だから密かに作品を描いていたのが、アメリカの雑誌に掲載されたのを契機にアメリカに移住して、そこで才能が花開いたんです。70年代のヒッピー以降のマイノリティカルチャーがフックアップされていく中で認められて、MoMAなどに作品が展示されています。

フィンランドではなく、アメリカで才能を認められたんですね。

でも今では母国フィンランドで、彼の作品が切手にもなっているんですよ。フィンランドでも同性愛を認めようという動きが盛んになって、2014年に法改正が行われ、同性婚も合法化されました。そのときに、ゲイを描いたアートで世界的に有名になっていたトム・オブ・フィンランドこそ、国を挙げての多様性の象徴だとして一気に認められるようになったようです。

会場にはトムの生涯(1920〜1991年)のうち、1946年から1989年の間に製作された30点の作品を展示。

隠れて描いていた作品が一転して、多様性を象徴するアイコンに。

今回の展覧会も、フィンランド大使館が全面的にサポートしてくれています。なぜこのようなエロティックなアートを国の機関が支援するのかと訪ねたら、「かつては同性愛を認めない悲しい時代があったが、でも私たちは変わることができた。多様性を認め、さまざまな文化や思想をサポートする国であることをメッセージしたい」と語っていました。

タブー視されていた同性愛の開放や多様性の受容を求めるトムのメッセージ。

今回の展覧会で、小林さん的な見どころはどこですか?

生誕100周年なので、存命なら今年100歳なんですよ。秘め隠して描いていたフィンランド時代の作品、1946年頃のものは、自分の好きなものを描いている、趣味の時代の絵だと思うんです。デッサンの上に水彩で着色してるんですけど、これを家で一人で描いていたと思うとロマンチックだなって。そこから時代を経て、イラストレーターやアーティストとして描くようになり、だんだん作品としてカタチになっていく、その過程も面白いなと思います。
あと、トムのインタビュー映像を会場で流しているんですが、テレビの上に、トムの作品によく登場するバイク帽を置いているんです。トムがアップになるとかぶってるように見えるので、そこもひそかな見どころです(笑)

左下のテレビの上にあるのが、バイク帽。トムがアップになる瞬間をお見逃しなく。

小林さんが今後、心斎橋PARCOで見せたいもの、やりたいことって、どんなことですか?

既に人気があるものを持ってくるのではなくて、大阪の府民性というか、大阪の人のムードを借りて、ここから新しい価値観が生まれて人気が出るような、誰もまだ知らないけど大阪の人が気に入って盛り上がってくれる、そういうものができたらいいなと思います。

9年ぶりに帰ってきた大阪の印象は、いかがですか?

大阪は勝手にめちゃくちゃなことやってる印象があったんですけど、独特の毒々しい激しさは、減ってしまっている気がします。東京もそうですが、文化が細分化して、小さいコミュニティがたくさんある感じ。でもそういうのをつなげて集めて紹介するのがPARCOの役割かなと思います。大阪のいろんなコミュニティとつながって、遊んでもらえる場所、たまれる場所にしたいですね。また皆さんの力を借りて、この街の仲間に入れてもらえれば。もう一度ゼロから友だちを増やしていきたいと思います。


(後書き)
写実的でありながら自分の理想の男性像を描いたトムの作品は、細かい筆使いに「愛」を感じます。小林さんのおっしゃるように、禁断のフィンランド時代と、のびのび描けるアメリカ時代は、作品の雰囲気が違う感じ。そして、会場に展示されているトムのメッセージがぐっと来ます。生誕100周年ということを忘れるほど、作品もメッセージも「今」っぽい。あと、ピタピタのレザーやバイク帽などのコスチュームの原点がトムだった!というのも発見でした。

トートバッグやバッジなどグッズも多数。右は「着るとこれが一番かっこいい」と小林さんイチオシのTシャツ。
Profile

株式会社パルコ
エンタテインメント事業部 コンテンツ事業担当 部長
小林 大介さん

渋谷PARCOの『AKIRA』アートウォール・プロジェクトなどを手掛けた小林さんの最初の赴任地は、ここ大阪。20年以上ぶりの大阪は、少し大人しくなった印象とか。「大阪こそ、独自の進化をするガラパゴスであってほしいですよね」。

Exhibition

Reality&Fantasy The World of Tom of Finland

心斎橋PARCO 10階「イベントスペース」
2020年11月20日(金)~12月7日(月)
主催・企画制作:パルコ / The Container
協力:フィンランド大使館 / フィンランドセンター / TOM OF FINLAND財団

https://art.parco.jp/shinsaibashi/detail/?id=530
https://shinsaibashi.parco.jp/event/detail/?id=8388

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