Interview & Writing
六車 優花
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西島 渚

大阪・今里の閑静な住宅街に、突如出現する真っ白なハコ。こちらは、2021年4月4日、4時44分に誕生したアトリエ&ギャラリー『JITSUZAISEI』です。代表を務めるのは、若干24歳でここを立ち上げ、自身も現代アーティストとして活動するMINAMI MIYAJIMAさん。スタートに合わせて44名の作品展示を行ったにも関わらず、最初の3ヶ月間はなんと住所非公開! クラウドファンディングで支援した人のみが、住所を知ることのできる仕掛けに。そんなトリッキーな策略が話題を呼び、7月にようやく全貌がオープンになった『JITSUZAISEI』。今回は、立ち上げまでのストーリーやこの場所に込めた想いを、代表のMINAMI MIYAJIMAさんにインタビューしました。新しい時代を切り拓く、ニューノーマルなギャラリーの在り方に注目してください!

一心不乱に四角を描いていると心が浄化される。客観的に自分を見つめることの大切さを、作品を通して伝えたい。

まずは、アーティストとしてのMINAMIさんのことをお伺いしたいです。スクエアをたくさん密集させたアートが印象的ですが、どういった経緯でこのスタイルを確立されたんですか?

小さい頃から絵を描くことが好きで、美術を専門的に学べる高校に進学しました。その頃は今のスタイルが確立されていたワケではなく、至って普通の絵を描いていて、それが変化したのは17歳の時。伸び悩んでいた時期と人間関係のモヤモヤが重なって、気が付くと一心不乱に四角を描いていたんです。「描くぞ!」と意識して始めたワケではなく、本当にいつの間にか。この形を描いていると心が浄化されて、すごく落ち着いた気持ちになれるんです。それもあって、“四角を描く”という行為をずっと続けていました。最初は私自身、八つ当たりするような感覚で描いていたので、これをアートとは捉えてなかった。だけどちょうど高校生対象の公募展があって、「今は四角を使った作品しか描けないし、イチかバチかこれで出品してみよう」と応募したんです。そしたらなんと賞をいただくことができて、これを作品として評価してくれる人がいるんだと、本当にびっくりしました。個人的にこれを良いと思っていたのではなく、ただ自分のできることをやっただけだったから。それまで自分はダメ人間だと落ち込むことが多かったのですが、「そんなことないよ」と背中を押してもらえたような気がしました。今はイラストからグラフィックデザインまで、幅広く仕事をしつつ、スクエアを敷き詰めた作品を軸にアーティスト活動をしています。

このアートは偶然生まれたものだったんですね。四角を描いていると落ち着くって、なんだか不思議な気がします。

自分なりに色々分析してみたんですけど、昔から建築物がすごく好きだからかなと。木造というよりは、コンクリート打ちっぱなしの無機質で洗練された建物が好き。眺めていて癒されるものと、描いていて落ち着くものが、私の場合リンクしているのかもしれないですね。モノトーンの作品が多いのも、きっとそれが最も落ち着く色合いだから。服もほとんど白か黒だし、音楽も単調なテクノしか聴かないし、自分のパーソナルな部分が作品にそのまま投影されているんだと思います。

このスクエアアートには、どんな想いが込められているんですか?

私はこの作品をきっかけに自分を肯定してもらえた過去の経験があるから、同じように自分自身を客観的に見つめることの大切さを伝えたくて。一人で思い詰めるんじゃなく、第三者的な目で自分を見つめられるようになってほしい。そしたらきっと、自己評価や捉え方も変わってくるんじゃないかなと思います。アートとして評価していただくのももちろんですが、それと同時にこの気持ちにも共感してもらえたら嬉しいですね。

目指すのは、“面白い”が常に実在するスペース。アートに限定せず、ジャンルレスな表現の場を創造したい。

次に、こちらを立ち上げたきっかけを教えてください。

高校卒業後は大阪芸術大学に入学したんですが、3ヶ月で中退して、その後は制作活動を続けながら昨年まで会社員をしていました。ここはもともと普通の一軒家で、縁あって借りることができたんですが、最初は自分のアトリエとして使っていたんです。そんな時、美大に在学中の知り合いに、コロナ禍で作品展示の機会が極端に減っているという話を聞いて。大学の制作室が封鎖されたり、レンタルスペースなどの料金が極端に高くなったり、お金のない学生にとってかなりキツい状況だと。だったら私だけでここを使うのはもったいないし、そんな人たちのための展示スペースを作りたいと思って。クラウドファンディングを利用して、『JITSUZAISEI』の立ち上げプロジェクトをスタートしました。若い人たちが使いやすいよう、レンタル料もリーズナブルに設定しています。真っ白のギャラリーって、大阪にはあんまりないような気がしたから、壁も床も天井も全部真っ白に。あと、個人的にインスタレーションが好きなんですが若いアーティストが少ない印象だったので、今後増えて欲しいという願いも込めて吹き抜けにしました。これだと大きな立体物の展示もできるし、色んな可能性が広がるかなと。アートはもちろん、ライブや映像、パフォーマンスなど、ジャンルレスに使える表現の場でありたいと思っています。

『JITSUZAISEI』という屋号もすごくキャッチーですよね。どんな意図が込められているんですか?

私の作品には“客観的な視点”というコンセプトがあって、その関連ワードを色々調べていたところ、辿り着いたのが「実在性」でした。今って、流れが激しい消費社会じゃないですか。どんなに面白いコンテンツを作ってバズったとしても、時間が経つと忘れ去られてしまう。それってすごくもったいないことだなと。世間の流れに左右されない、“面白いこと”が常に実在する場所。そんなスペースを作りたくて、『JITSUZAISEI』という名前にしました。

オープン後は住所を非公開にするなど、かなり攻めたブランディングをしていましたよね。どうしてそんな仕掛けを?

4月4日の4時44分にオープンして、その後3ヶ月間は住所非公開にしていました。住所を知ることができるのは、オープン時のクラウドファンディングで支援してくれた人、もしくはイベントで展示していた作品をネットで購入してくれた人だけ。こんなことをするギャラリーって他にないだろうし、だからこそ色んな人に興味を持ってもらえるんじゃないかなと。その結果、幸いにも注目してもらえて、クラウドファンディングにもたくさんの人が協力してくれました。かなりトリッキーな仕掛けだったから不安もありましたが、集まったアーティストの皆さんも心から応援してくれて。やって良かったと思っています。

「4」にこだわったのは、ご自身の作風から?

スクエアアーティストと名乗っているのもあって、「4」にとことん執着したら面白いんじゃないかなと。そうやってこだわり続けていると、実際色んな場所で興味を持ってもらえることが増えたんです。ブランディングって、すごく大事なんだなと感じました。オープン時は44人のアーティストの展示を行ったんですが、本当に大変で気が狂いそうでした(笑)。いつも誰かに誘われて動く人間なので、自分から何かを仕掛けることがなくて。もうダメだと思ったこともあったんですけど、最初の大仕事をなんとかやり遂げて、成長できたと思います。今までアーティストとして活動していたのが、いきなりギャラリストになったから、勝手が分からないことも多くて。自分もまだ売れていないのに、人の作品が売れるように頑張らなきゃならない。ギャラリーを運営しているアーティストは結構増えてきている印象で、両立しながら頑張っている方々を本当に尊敬しています最初に展示を行った44名のアーティストは、SNSで繋がっている知り合いが大半で。もともと『アトリエ三月』というギャラリーでアルバイトをしていたので、そこで繋がった方も多いですね。

吹き抜けが気持ちいい真っ白な空間に、鮮やかなアートが映えます。

2階は様々なアイデアが生まれるコミュニティスペースに。お気に入りの絵を、カジュアルに楽しめる世の中になってほしい。

現在はどれくらいのスパンで展示を行っているんですか?

月に最低一本は、誰かの展示や企画を実施しています。私一人だとどうしてもアイデアに限界があるので、ここを始める前に「面白いこと考えてくれる人募集します」とTwitterで呼びかけたんです。すると10人くらいの方が、「興味あります!」とDMを送ってきてくれて。北海道に東京、富山、住んでいる場所はバラバラなんですが、『JITSUZAISEI』のメンバーとして、週に一度ミーティングを行いながら一緒に企画を考えています。皆全国各地に住んでいるから、関西以外の情報も入ってくるから新鮮ですね。コロナって本当に最悪だけど、こういう世の中になったからこそ、オンラインミーティングが当たり前になって今のメンバーに出会えた。離れていても、一緒に仕事ができるんだなと実感しました。ここをやろうと決心したのも、表現の場が制限されてしまった状況を打破するために捻り出した結果ですし。ピンチはチャンスじゃないですけど、今の時代に沿った良い動きができたかなと思います。

まさに、現代にマッチしたギャラリーって感じですね。

これは余談なのですが、実はコロナ禍じゃなかったら、海外に留学する予定だったんです(笑)。頑張ってお金を貯めていたんですけど、結局こんな状況になったから行けなくなって。

え!そうなんですか!

だから2年前までは、自分がギャラリーを経営するなんて本当に考えてなかった。あまり考えずにすぐ行動しちゃう性格なので、「やろう」と決めたことは結構振り切ってやっちゃうんです。

その行動力、本当に尊敬します。この建物は1階が展示スペース、2階はバーになっているんですよね。どうしてバーを作ったんですか?

自身のスクエアアートをカッティングシートで全面にあしらった2階のバー。

私自身、バーにめちゃくちゃ行くとかではないですが、今って誰かと一緒にお酒を飲む機会もなかなか無いじゃないですか。だけど、さり気ない会話の中でアイデアが生まれたり、色んな人と繋がったりできる、貴重なコミュニティスペースだと思うんです。ここに来たお客さんとクリエイターが繋がって、何かが生まれるきっかけになればと願っています。一応バーは会員制ですが、日曜はカフェとして営業しているので、一見さんも来てくれたら嬉しいな。ちなみにジンが好きなので、お酒はジンを多めに置いています。

最後に、20代のアーティストとして、この時代に思うことはありますか?

日本人って有名な方が高額な作品を買うと、「そのアーティストってすごいんだ!」という価値観を植え付けられがちなんですけど、それは違うやろって思っていて。例え子供の作品でも良いものは良いし、高けりゃ良いってワケじゃない。人それぞれ感性は違うから、金額も名前も関係なく、まっさらなフィルターで作品を見て欲しい。お気に入りの絵を、もっとカジュアルに楽しめる世の中になればと思います。それこそ、ウチをきっかけにアート好きが増えたら嬉しいですし。今はアーティストとしての成長も、ギャラリーの成長も、飲食スペースの成長も、一度に全部やっていかなきゃなのですごく大変。だけど、せっかく素敵な場所を持つことができたので、アクティブに頑張りたいです。今里って中崎町にも通ずるノスタルジックな雰囲気があるから、ここをきっかけにもっと若者が増えたら良いなと。今後は、このエリア自体を盛り上げていけたらと思います!

取材に訪れた日は、「回帰する少年性、」(110)という個展の準備中でした。
住宅街の一角に佇む『JITSUZAISEI』。まさかこんなところにギャラリーがあるなんて!
Profile

MINAMI MIYAJIMA

大阪生まれ、大阪•今里『JITSUZAISEI』代表。スクエアが密集した集合体による作品をメインにした現代アーティスト。「若手クリエイターの表現の場を」とクラウドファンディングを行い、2021年4月4日より自身のアートギャラリー『JITSUZAISEI』をスタート。

https://minamimiyajima.com/

Gallery

JITSUZAISEI

大阪市東成区大今里4-14-18
TEL/06-6224-4475
営業時間/14:00~23:00
定休日/火曜(臨時休業の場合あり)
※お越しの際は必ずSNS等をご確認ください。

https://www.jitsuzaisei.com/

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