Interview & Writing
前出 明弘
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小林 俊史

神戸市北区の人里離れた山の中で、自身の工房<つくも窯>を構えて活動する陶芸家の十場天伸さん。泥状の化粧土(スリップ)で模様を描くイギリスの伝統的な技法であるスリップウェアを中心に手がけ、常に新しいチャレンジの中から生み出されてる作品は、僕ら的な言葉で言えば「めちゃくちゃシブい!」んです。聞けば、基礎的なことは学んでいるけど後は全て独学だそうで、伝統を重んじるイメージの陶芸を自由にアップデートしてるような感じ。陶芸家として歩んで来た道もスタイルも型にハマらない、そんな十場さんだから生み出せる圧倒的な世界をどうぞ!!

高校時代に出会い、アメリカでも再会したスリップウェアがやりたい!その一心で、弟子入りせずに独立した。

日本のみならず海外でも十場さんの作品は大人気ですが、まずは陶芸家としての歩みの部分からお話を聞かせてください。陶芸家を志したのはいつ頃なんですか?

島根の高校に行ってたんですけど、焚き火や火で遊ぶのが好きだったこともあって陶芸部に入ったんです。そこで陶芸の楽しさに触れて、陶芸家を志すようになりました。島根には湯町窯や山根窯といったスリップウェアの名窯があり、初めて見た時は「なんや、この器は!」という衝撃も受けてね。陶芸を一生の仕事にしたいと、ますます思うようになったんです。

部活がキッカケだったんですね。ってことは、その後は専門学校へ?

いや、違います(笑)。陶芸をやることは決めてたので、ひとまず別のこともやってみようかなと。

あえての遠回りですか(笑)

高校卒業後は沖縄のガラス工房で働いてみたり、アメリカにも3年ほど留学してたんです。それで、自分はやっぱり陶芸やなと確信させた感じです。

すごい確信のさせ方ですね。アメリカではどんなことを?

学生ビザで行ってたので勉強がメインではあるんですが、バイトばっかりしてました。本当はダメなんだけど…。ただ、バイトしすぎて「アメリカに来てんのに何してるんやろ?」って、自問自答することも多かったですね。

そうなりすますよね…。ちなみに、どんなバイトを?

日本食レストランです。調理経験はもちろんないし、修行なんかもしてないのに日本人ってことだけで、独学でめっちゃ寿司を握ってました。

その展開は予想してませんでした(笑)。勉強やバイト以外では?

留学先はフィラデルフィアでアメリカの東海岸なんですが、偶然にもスリップウェアが盛んなエリアでした。イギリスからの移民が多いのも理由の一つかもしれませんね。現地の美術館に行った時にスリップウェアを見て、「やっぱりエエな」と。なんか再会したような感じがしたんですよ。

十場さんが所有するイギリスで作られた昔のスリップウェア。焼き締まっていないため耐久性がなく、スリップも剥がれているが、インテリアとしては十分に活躍する代物。

スリップウェアと再会できて良かったです!それで改めて陶芸の道に進むことを強く思ったということですね。日本に帰国してからは?

高校時代は部活レベルだったので、まずは陶芸をしっかり学ぼうと思って京都の専門学校に行きました。でも、学んでいるのはあくまでも基礎的なこと。卒業後はほぼ全員がどこかの窯元に弟子入りする感じでした。

なるほど、それが陶芸家になるメインストリーム。十場さんも同じくだったんですか?

いろんな窯元に見学に行ったんですが、「やりたいことが決まってるなら、自分でやった方が早いよ!」と言われて。

自宅の二階に無造作に置かれた作品たち。レイアウトしてるんですかという問いに「作ったものをとりあえず適当に置いてるだけ」とのことですが、めちゃくちゃ絵になる空間でした。

ってことは、卒業していきなり独立ですか?

はい。スリップウェアをやるってことは決めてたので。言われた言葉を信じてスタートしましたが、最初はめちゃくちゃキツかったですよ。独立して陶芸家を名乗ってもまず場所がないから、両親にお願いして実家を使わせてもらい、ご近所さんにも窯を作ることを了承してもらって何とかスタートした感じです。両親には当初2〜3年と伝えていたけど、結局どんどん占領してこの地に留まってます。でも、今考えると正解やったなと。弟子入りして4〜5年修行したとしても、師匠の型にハマって抜け出せないこともあるし、かと言って師匠と同じスタイルではできないし。

やりたいことが明確だからこそ、切ることができたスタートですね。

そうですね。高校時代に出会って、アメリカでも再会したスリップウェアがやりたい!その一心でしたから。

できないことがあるからおもしろい。その時は悔しいけど、できるようになることを考えればいいだけだから。

専門学校では基礎しか学んでなかったそうですが、いざ独立しとは言え、スリップウェアも独学ってことですか?

当然そうなります。もちろん学生時代から独学でやってましたけど、ほぼゼロからのスタート。そもそも学生時代は電気窯しか使ってないので、薪窯の経験がなかったんですよ。スイッチ入れたらOKの電気窯と違って薪窯は、火をコントロールしないといけない。火は生き物だから思い通りにはいかないし、数え切れないほど失敗しましたね。失敗して、失敗して、でもそこからが始まりなんですよ。

失敗して試行錯誤するから、自分らしいものが生み出していけると。

失敗があって、そこで試行錯誤することで新しいアイデアも生まれてくる。だから、新しいことにもチャレンジしていける。自分の陶芸家としての人生は、失敗→試行錯誤→チャレンジの繰り返しでできてると思ってますね。今でも狙った通りにいかず失敗することもあるし、窯の中で崩れていく光景を見てめちゃくちゃショックを受けることもある。でもね、できないことがあるからおもしろいんですよ。その時は悔しいけど、できるようになることを考えればいいだけなんで。

型取りしてスリップを描いた器にデザインを加えてる一幕。
こちらはスリップウェアの鍋を窯入れする前のもの。形状もめちゃくちゃシブいです。

陶芸と常にがっぷり組み合い、向き合ってる十場さんならではですね。それに独学から始まった試行錯誤のプロセスがあるからこそ、スリップウェアの伝統スタイルを根底にしつつも、型にハマらない作品が生み出せている気がします。模様のパターンはあらかじめ決めて描いてるんですか?

模様はその日の気分で自由に描いてますね。自分の中で描きたいものが常に頭にあるので、「今日はあれを描こう」って感じで。

繊細で美しいものがあったり、力強くて男らしいものがあったり、見てるだけでも楽しくなります。スリップウェアを作る際の十場さんのポイントがあれば教えてください。

模様については誰でも描けると思いますよ。僕の弟子でも描けますけど、やっぱり仕上がりの雰囲気は変わってくるはずだから、任せることはしてませんね。それと、スリップウェアはやっぱり調合かなと。仕上がりの雰囲気はもちろん、調合によっては模様が剥がれたりもしますから。原料の成分も時代と共に変わってくるので、その変化に合わせて調合のアップデートも必要なんですよ。学生時代から調合は始めてましたが、今でもずっと調整は続けてますね。

こちらが窯のある場所。手前に穴窯、奥に薪窯を備えてます。

なるほど。あの仕上がりの雰囲気は、調合が左右するんですね。ちなみに薪窯に火入れする時は、火を絶やすことなく焚き続けるんですか?

火を絶やさずに徹夜で焚き続ける話はよくあるし、よく聞かれますけど、あれは陶芸家の武勇伝みたいなもんですよ。僕は他の人とは違ってて、1日焚いたら火を止めて寝る。そして、次の日に再び焚くっていうスタイル。だって、徹夜なんかツライだけやし、ちゃんと寝た方が良いに決まってる(笑)。徹夜で焚くって言うとカッコイイけど、僕は言わないし、寝ます。

そうなんですね(笑)。てっきり夜通しで焚いてるかと思ってました。

そこも独学だからかなと。ちなみにですが、窯の前って本当に熱いし、暑い。気持ちが滅入りそうになるくらい。だからと言ってはなんですが、窯焚きしてる時は外に水風呂を置いて、簡易サウナみたいにしてる時もあります。窯の前で汗だくになって、外の水風呂に入って、整えるんです。

なんかめちゃ楽しそうですね。そんなスタイルもやっぱり型にハマってないですし、陶芸とは真摯に向き合ってるけれど、そうした遊び心が作品にも滲み出てるのかなと。スリップウェアに関してもアメリカンサイズな大皿があったり、それ以外にも重曹を使ったソーダ釉の器シリーズや漆で仕上げた器シリーズなど、いろんなことにどんどんチャレンジされてますよね。

スリップウェアは自分の軸としてありますけど、他の人がやってない新しいことをどんどんやりたくなるんですよ。他にも米ぬかを染み込ませたり、木の皮を貼ったり、松の葉で引っ掻いたり。身近にあるものを使って作るのも楽しくておもしろいし、とにかくやってみたいことがあり過ぎる状態で。原始的な穴窯も作ったんですが、ようやく焚き方が体に染みついてきた気がします。薪窯ともまた性質が違うので焚きながら学ぶしかないし、半年離れてしまうと体が感覚を忘れてしまう。だから、無理してでも穴窯を使ってますね。新しい窯を作った時は、僕も弟子もスタートラインは同じで、初めて向き合う窯の性格をいかに理解できるかがポイント。試行錯誤しながら僕も弟子も、そして窯も一緒に成長していくような感じです。

十場さんの前にあるのが、現在制作中のイス。石膏で作った型だけでも60kgあるそう。

楽し過ぎる試行錯誤の時間ですね。

今は陶器のイス作りにチャレンジしてるんですけど、型を作って乾かすのに3〜4ヶ月かかってしまい、ようやく制作段階。思いついてすぐに行動しても、時間がめちゃかかるのが悩みなんです。

それは大変。取引先さんからのオーダーもあるでしょうし、制作の合間を縫ってのチャレンジは時間がなかなか足りませんよね。

皆さん「いつでもいいよ」と言っていただいてるのでありがたいんですが、あまり待たせるのも申し訳なくて…。でも、チャレンジする手も止めらなくて…。

取引先の皆さんもきっと、十場さんの陶芸に対する探究心を止めたくないんでしょうね。オーダーしてるものも、そうした探究心の狭間で生まれてきたものだとすれば、またいろんな視点で作品を見ることもできそうですし。その楽しみを皆さんが知ってるんだと思います。

オブジェのような大きな作品をどんどん作っていきたい。今、大きな壺や球体の作品が増えてきてるのも、その欲求のせいなんです。

今年も全国各地で個展が行われてますが、これからの取り組みについても聞かせてもらえれば。

おかげさまでたくさんの方々に声をかけていただいているので、今年は精力的に個展を行ってきました。でも、来年からは少しペースを落とそうかなと。

より制作に専念するためですか?

そうですね。チャレンジしたいことも多いし、考える時間やもっと深く陶芸と向き合う時間を作りたいと思って。

頻度が減るのはファンとしては残念ですが、十場さんの新たな作品が生まれるなら楽しみに待つ方ばかりだと思います。

ありがとうございます。それに来年は作業場を新設する予定なんです。そこは窯のサイズも現状の倍ほどになり、さらに大きな作品を生み出せると思います。

それは楽しみです!大きな作品と言うと?

オブジェになるようなものですね。イス作りにチャレンジしてることを話しましたが、今は大きな作品をどんどん作っていきたくて。大きな壺や球体の作品が増えてきてるのも、その欲求のせいなんです。大きくなればなるほど時間もかかるし、工程も難しくなるけど、チャレンジしがいがありますからね。

自宅の玄関前に置かれてるのもそうですよね。大きさのインパクトだけじゃなくて、めちゃくちゃカッコイイです!

次の個展用に新たに作ったものですね。このサイズのものやそれ以上のものを作るとなると、今の作業場では手狭なので。

先ほどもお話しいただきましたが、できるようになることを常に考えてるからこそ、作業場の新設は必然だったんですね。

だから、フォークリフトも導入します。

フォークリフト?

自分の手では持ちきれない大きさと重さなのでね。フォークリフトの必要性も必然なんですよ。

確かに(笑)

大量生産しているメーカーなどでは当たり前かもしれないけど、個人作家で導入してるのは珍しいかもですね。大きな作品が売れるか売れないかは正直分かりませんが、とにかくチャレンジしたいんですよ。失敗したとしても、そこには試行錯誤という産物が自分には残るので。挑み続けることで、可能性は広がっていくと思ってますね。

元々実家だった茅葺の古民家を改装したご自宅。茅葺き屋根の窓にはステンドグラスがはめ込こまれていて素敵です。

オブジェとしてのカッコ良さ、価値については、誰もが現物を見ると実感すると思います。アメリカでも年に一回は個展されてると聞きましたが、大きな作品については日本よりも特に海外の方が親しまれやすいんじゃないですか?

住空間のスケールも違いますからね。スリップウェアの大皿作品なんかもインテリアとして購入される方が多かったです。1度に3枚購入された方もいましたし、有名なラッパーの人も手に入れてくれました。

あの大皿作品は実際に使ってもいいですし、オブジェとしても絶対に映えますよね。ちなみにラッパーの方ってどなたですか?

グラミー賞とかを取ってる方でしたね。えーっと、名前は忘れちゃいました(笑)

あっ(笑)。でも、十場さんのファンは世界にもいっぱいいるってことですね。本当に良いものと言うか、作品自体が十場さんの生き写しだからこそ、海を越えても愛されるのは陶芸家冥利に尽きますよね。

本当にそう思いますね。アメリカの企業から日本国内のプロジェクトに参画してくれというオファーもあったりしますし、陶芸家にも国境はないなと。ただ、窯元としての規模を拡大する気はないんです。商業的に大量生産するつもりもないし、しっかりと陶芸と関わりたいのであくまでもスタイルは今のまま。弟子たちを育てて任せる部分は増やしつつも、これからも陶芸家として陶芸と向き合っていきたい。そして、自分の好きなもの、やりたいものを作り続けていきたいと思ってます。


<展示会情報>
十場さんが今作りたくてたまらないと語っていた、壺やオブジェといった大きな作品を中心とした個展が開催。インテリアとして飾るも良し、実用的に使うも良しの圧巻の作品が並ぶので、ぜひ実物を手に取って見てみてください。

十場天伸展
日程:9月25日(土)〜10月3日(日)
時間:12:00〜20:00
場所:RAYCOAL 大阪市西区靭本町1-14-8 鈴木ビル1F
https://raycoal.jp/


Profile

十場 天伸

1981年生まれ。兵庫県出身。学生時代に島根県でスリップウェアと出会い、陶芸家を志す。沖縄でガラス工芸に従事し、アメリカ留学を経て京都伝統工芸専門学校に入学。卒業後は弟子入りせず、独立して神戸市北区に<つくも窯>を築窯。国内はもちろん、海外のギャラリーでも展示会を開催し、人気を集めている。

http://www.tsukumogama.com/

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