幼少期から書道に親しみ、2017年より書を軸とした作品を発表し続けているアーティスト・新城大地郎。伝統や歴史を重んじながらも、世の中の普遍性に自問自答を繰り返し、言葉や文字を使いながらも書道の枠にとらわれない作品の数々は、世界中で高い評価を得ています。そんな新城大地郎による展覧会が、『haku kyoto』・『kokyu kyoto』・光明院の3会場で同時開催中！

『kokyu kyoto』では、初期の作品でもある英字新聞の上に描いた作品や、彼自身の作品を解体・再構築したコラージュ作品など、過去に発表した作品を展示。彼のアーティストとしての変遷が見れる貴重な機会になっています。

『haku kyoto』では、主に「阿吽」という禅語をモチーフにした作品を発表。「阿吽」とは、よく息が合わさった際に使われ言葉で、禅語においては物事の根源と帰着（万物の初めと終わり）を意味する言葉。彼がこの言葉を選んだ背景として、公開制作の時間を重ね、主体性を自らで揺さぶりながら刻々変化する瞬間に、「只ひたすらに今存在している」、という自己の存在認識から発した言葉と言えます。あらゆるものが顕在化した空間の中で落とし込まれていく実在への問いの反復は、非論理的で抽象的な禅問答となって投げかけているように感じられます。

そして、東福寺塔頭・光明院で行われている展示『DARUMA 60 seconds series 2023』（Freedom dictionary 主宰）では、インスタレーション作品を発表。白隠や仙厓の書画で知られる達磨大師は、彼がこれまでにも文字以外で頻繁に制作しているモチーフ。今回展示されている「1作品60秒内」という条件を自ら課した22点の連作は、いかに作為を消し、即興的に表現できるか試みたドローイングシリーズです。禅僧である祖父を持ち、幼少期から禅や仏教文化に影響を受けて育った彼は、自身にとって特別な存在でもある寺院空間での展示に際し「言葉は書けなかった」と話し、作品を簡素な状態で晒した展示空間には、寺院での表現に対する葛藤や、意識と無意識の間に揺れる精神の動きを見ることができます。彼自身が「達磨の面をした現在の自画像だ」と言うように、今度は自ら描いた達磨に“見る‒見られる関係”を発生させ、さらに自己を見つめた問いをこの展示では連続して見ることができます。

禅問答のように自らに問いをたてることで、書く行為を表現へと繋げ、瞬間の意識や感情を切り取り、書き留めている彼の作品と向き合う時、文字や言葉、絵といった決められた枠の中で見るのではなく、人それぞれが自分自身の感覚や意思に正直になってみてほしい作品ばかり。いつの時代もどこでも変化や多様性はありますが、物事を鵜呑みにするのではなく、疑いや意志を持って向き合うことが必要かもしれません。3つの会場を巡りながら、それぞれが自らの問いや答えを見つける機会になる、そんな展覧会です。