遊びと仕事のちょうど真ん中、部活みたいな感覚を大切にしたい。大阪発のDTMユニット・パソコン音楽クラブの実験的思考。


4thアルバム「FINE LINE」のテーマは“宇宙人のいる生活”。他人の意識を組み込むことで、僕らの想像を超えたワクワクする作品に仕上がりました。

音楽以外に影響を受けたカルチャーを教えてください。

柴田:僕は建物に興味があって、それが音楽にも影響を与えていると思います。最初に僕らがネット上でリリースしたEPも大阪・南港の『ATCホール』がジャケになっていて。あの感じを音楽で表現できたらいいなぁと。

西山:抽象度の高い音楽を建物でビジュアル化する。それがすごくしっくりきたんです。

柴田:設計者の意図はありながらも、公共物だから用途が使い手に委ねられているところや空間が存在する点にも録音音楽との共通項を見出して、それがすごくおもしろいなと。建物と音楽を読み換えるという視点は、音楽制作に活かされているのかもしれません。

西山:僕は映画が好きで、5月にリリースしたばかりの4thアルバム「FINE LINE」は映画の構成を参考にさせてもらいました。映画って膨大な数の出演者がいるから、そのせいで監督が意図していないものが映り込んじゃう時があって。ふと誰かの手が映り込んで心霊現象じゃないかって話題になること、ホラー系の作品だとよくありますよね。それをホラーの作家さんがポジティブに捉えている本があったりして。僕らはこれまで全てをコントロールしなきゃと思って作品作りをしてきたので、とても新鮮に感じました。関わる人を増やしたり他の人の意識を組み込んだり、自分の意図からはみ出した部分をおもしろいとポジティブに感じられるのか実験したくて。
例えば、収録曲の「Prologue」を除く1曲目の歌詞はchelmicoにお願いしました。僕らだと絶対使わない「ドーン」っていう言葉をRachelが使っていて。最初の作品の入りって印象が決まるめちゃくちゃ重要な部分なんです。その歌詞を他の人が書いている。今作のテーマは“宇宙人のいる生活”なんですが、まさに未知との出会いですよね。

確かに実験的ですね。緻密に計算してこそ成立する建築と映画の手法とでは、根本的に捉え方が異なるような気がします。何か意識的に変えた部分はあるんですか?

西山:そうですね。前回のアルバムまではより建築的な音楽を作ろうと、2人で徹底的にコントロールしようとしていたんです。だけどあんなにゆる~くやってたのにめっちゃ完璧を求めるじゃんと思うようになって、初期の部活感がないのが寂しいなぁと。悪い意味じゃなく、行き着く先が見えてきたから違う方法を取ってもいいんじゃないかと考えて。いろんな人が見え隠れして、よくわからない誰かの意識が自然と組み込まれている作品。なので今回のアルバムは初期の頃に戻った感じです。

今までのアルバムも、曲のイメージからアートワークまで一貫した世界観を大切にされていますよね。それぞれその時の心境や興味のあるものが投影されているのかなと。そういう意識はあるんですか?

柴田:まさにその通りで、日記に書いているような意識が根本にあります。

西山:2人ともアルバムが好きなんです。最近はサブスクの勢いもあって、シングルをたくさんリリースして、まとまってきたらEPかアルバムにするのがセオリーなんですが、僕らは1本筋の通ったアルバムを作りたくて。その時々の自分たちの意識を作品として残すことで、後から聴き返した時に「あの時こういう風に考えてたんだ」ってわかるのがおもしろいなと。まるで本当に日記みたいに。

その時々の心情やインスピレーションを受けたものを意図的に落とし込んでいるんですね。

柴田:僕らの作る曲は人に歌ってもらってはいるけど、意外とフォークソングみたいな歌詞が多くて。その時々の心情や興味があること、イメージするものっていうのを詰め込んで、そこから何が立ち上がるかを追求しています。

今回のアルバムは、ドラマチックやセンチメンタル、ノスタルジックな場面など曲によっていろんなイメージを持ち合わせていて、1つのストーリーとして構成しているのかなと感じました。

西山:これまでのアルバムは1つのコンセプトを掲げて作品作りをしてきました。1stアルバム「DREAM WALK」は“古い記憶”、2ndアルバム「Night Flow」は“夜の時間”、3rdアルバム「See-Voice」は“海の声”。どれも1つの風景に向かっていろんな角度からアプローチをかけていましたが、今回は1日の時間が流れるドラマティックなイメージを反映することで、よりカラフルかつバラエティ豊かな作品に昇華しました。

柴田:前回のアルバムは、自分のコアはどこにあるのかという問いかけが根底にあるんですが、それを続けていくといずれは死生観とかの話になるんじゃないかと思ってきて。僕らはまだ27歳、28歳なのに何しみったれたことを言ってるんだと(笑)。単純に明るい曲を作りたかったという気持ちもあります。

西山:あとは時代背景ですかね。「See-Voice」はコロナ真っ只中で作ったアルバムなので、思うように人と会えなくて孤独な感じが伝わってくるというか。ようやく人と会って話せるようになってきて、やっぱりこういう世の中じゃなくっちゃ!とトライブしたのもあります。

この曲のボーカルをこの方に歌ってほしい、というのは曲の制作段階からある程度頭に浮かべているものなんでしょうか?

西山:デモが6~7割できてから考え始めますね。誰に歌ってもらうかってめちゃくちゃ重要で、その人の得意な歌い方や雰囲気に合った曲じゃないとお願いするのは違うかなと。ある程度完成した曲に合わせて考えることが多いです。

今回お願いした方は普段から関わりのある方なんでしょうか?

柴田:今回は特にそういう方が多いです。chelmicoさんは以前エージェントの担当者が同じだったので関わりがあって。シンガーソングライターの林青空さんは大阪出身で地元も近くて、ライブハウスなどでよくお会いしていました。

西山:歌がお上手なのは知ってたんですが、全然ジャンルが違うので一緒になることがなくて。青空さんにお願いした「KICK&GO」は跳躍が多く息継ぎの難しい曲で、なかなか歌える人がいなくて人選に迷っていたんです。そしたら昔の記憶が蘇ってきて、声質も合いそうだからぜひお願いしたいと。ゲストボーカルを呼ぶ際は、あくまで曲がその人にハマるかを重視していて、友達だから呼ぼうみたいなのはあまりないですね。

今回は、ご自身でボーカルを担当した「Terminal」という曲も収録されています。

柴田:初めての経験でした(笑)

西山:というかやむを得ずって感じで。マスタリング前の最終納品1ヶ月前くらいに、4~5曲ボツにしたんです。当初はインストが多かったんですが、歌を入れないと流れが悪いなと感じてしまって。でも残り1ヶ月じゃさすがにオファーもできないし、仕方ないかということで。

柴田:だけど歌詞も今の僕らにハマっていたので、結果的に歌って良かったのかなと。今後歌っていくつもりはないけど、これはこれで満足できるものができました。

個人的には、LAUSBUBの高橋芽以さんがボーカルを務めた「Day After Day」が印象的でした。2021年頃にすごく話題になったテクノバンドですが、以前から交流があったんですか?

西山:Twitterで話題になった時から知っていて、単純に彼女たちの音楽が好きだったんですが、その後のインタビュー記事で僕らの名前を出してくれているのを見たんです。それがすごく嬉しくて、だけどずっと面識はないままでした。

柴田:そんな中で昨年、彼女たちからEPのリリースイベントの出演オファーをいただいて繋がりができたんです。

西山:オファーをもらった段階から縁があるなと感じていたので、思い切って「Day After Day」のボーカルをお願いしました。

柴田:LAUSBUBのオリジナル曲ってアブストラクトな感じで、ガッツリ歌い上げているものがあまりなくて。どんなボーカルになるのかは完璧に想像できてなかったけど、声質がめちゃくちゃ良いっていうのが2人の共通意見で。どう転んでも良い感じになるだろうから、とりあえず頼んでみようかと。

西山:そこで芽衣さんにスタジオに来てもらってプリプロをやったんです。その時に初めて生で歌っているのを聴いたんですが、その時点でこのままでいいじゃんってなるくらいめちゃくちゃ上手に。僕らのニュアンスと自分好みの歌い方とのバランスも図りつつ、何回もこだわりを持ってやってくださって。想像を遥かに超える作品になりました。

歌を乗せて作り上げる中で、実際の歌を聴いて曲を修正することはあるんですか?

柴田:結構ありますね。大体60%ほど完成した段階で歌取りをして、そこから編曲を詰めていくパターンが多いです。

西山:ボーカルのパワーが弱いと楽器を増やすこともあるんですが、単体で聴かせたいと思える声だったので、そこが最も引き立つよう曲を作りました。ボーカルはアレンジにもかなり影響してきます。

まさに自分たちのコントロールを離れた作品になったと。

西山:仰る通りです。他の作品でもそういうことが結構あって。自分たちで聴いても楽しいアルバムに仕上がりました。

今までのコンセプチュアルな作品から、ちょっとした新境地に来た感じですね。

柴田:本当にそう思います。

西山:大前提として100%コントロールする努力はしなきゃいけないけど、そこから溢れたものいいと思えるマインドみたいなもの。自分たちの手が届かなかった部分をポジティブに捉えられるようになったのが今回の作品です。

今までは現代風のシティポップやテクノっぽいインストの曲が多いイメージでしたが、今回はドラムンベースが全開な曲もあって、その点にも新しさを感じます。

西山:今作にはライブの感覚を反映してみたんです。これまでライブもたくさん経験させてもらったので、せっかくだからそこで得たものを作品に活かしたいなと。ライブっぽい疾走感を一貫して感じてもらえるようにしています。

DTMのライブと音源って印象やアプローチ方法が全く違ってくると思います。ライブに向けてのアプローチって何かありますか?

柴田:僕らはクラブに呼ばれてライブをすることが多いので、普段はダンサブルな音楽を意識して作っています。ただ音源に関しては、いかに今の自分のモードや精度を高めていくかという点に重きを置いていて。例えば、リスニング音楽に振り切った3rdアルバムの「See-Voice」は、コロナ禍でクラブイベントに参加できない状況がわかりやすく反映されていました。今作の制作中は徐々にイベントが増えた時期でもあったので、そういったエッセンスも自然とプラスされていると思いますね。

アートワークは音楽の印象を左右する重要なもの。今となってはビジネスパートナーだけど、部活っぽくやってた頃の感覚は忘れたくない。
123
Profile

パソコン音楽クラブ

2015年結成、大阪出身の柴田碧(左)と⻄山真登(右)からなるDTMユニット。往年のハードウェアシンセサイザー・音源モジュールを用いた音楽制作をしており、他のアーティスト作品への参加やリミックス制作も多数手掛ける。アニメ「ポケットモンスター」のエンディングテーマ制作なども担当。

Website: https://www.pasoconongaku.club
Youtube: https://www.youtube.com/@pasoconongaku
Soundcloud: https://soundcloud.com/0jyvjnv1dely

CATEGORY
MONTHLY
RANKING
MONTHLY RANKING

MARZELでは関西の様々な情報や
プレスリリースを受け付けています。
情報のご提供はこちら

TWITTER
FACEBOOK
LINE