僕らの神様はLOVE・MUSIC・DANCE。メンバー全員が様々な国にルーツを持つ多国籍バンド・ALIがピュアに音楽と向き合い掴んだもの。
「LOVE・MUSIC・DANCE」が神様で、ライブはそれを讃える教会。僕らはリアルに音楽に救われました。
日本の社会でハーフとして生きてきて、生き辛さを感じたことありますか?
LEO:比較的楽しく生きてきたけど、辛いことは数えきれないくらいあったよ。
CÉSAR:僕は辛い思いをしてきたぶん、逆に生まれ変わってもハーフがいいなと思います。見た目をイジられたり生き方を変えなきゃいけなかったり、そんな時期があったからこそ、自分なりの表現を加えながら音楽ができているんじゃないかなと。当時は辛かったけど、また同じ人生を辿りたいと思えるほど良い経験になりました。
素敵なお言葉ですね。ALIは2021年に活動休止も経験されていますが、それを経て新たに見えるようになった景色はありますか?
LEO:むしろ休止後の方が曲に説得力が出たというか、しっくりきちゃってる。休止前はコロナでバンドらしい活動ができてなくて売れてきている実感もなかったし、メンバー同士の仲も悪くて統率が取れなかった。2021年にメンバーが捕まったことを機に半年間活動休止になって、辞めたりサポートに回ったりするメンバーが出てきたんです。サブスクから曲も消えて、絶望のどん底にいるような状況だったんですが、エンゼルスの大谷翔平くんだけは「LOST IN PARADISE」を使い続けてくれて。しかもメジャーリーグのMVPを獲って、その発表日がちょうど僕らが復帰する日で。まさにギリギリのところを救ってもらって、なんだか上手くできたゲームみたいでした。本当に信じて良かったと思えたし、復帰後は大好きな人にサポートしてもらいながらやれるようになって、より音楽の深い部分を知れるようになったというか。芸の道はまだまだですが、以前よりもっとピュアに音楽と向き合えるようになりました。
ALIとしての純度がより濃くなったと。
CÉSAR:あの事件がないと出会えなかった人や気付けなかったことがたくさんあります。厳しかった「Blue Note ジャズフェスティバル」の担当さんがめっちゃ優しくしてくれて、そのありがたみを知れたりとか。
LEO:バンドの目標が「Blue Note」で、活動休止前に出演が決まっていたんです。
CÉSAR:事務所から今後の連絡が来る予定日が「Blue Note」当日で、僕らはまだチャンスがあると信じて、機材を積んで車で向かっていたんです。その時に「活動休止です」と言われて、雨が降っているなか号泣しながら謝りに行きました。担当の女性と泣きながら話して、帰る時に「私にはこんなことしかできないけど」とハグされて、僕はその方のことを好きになりました。付き合ったりとかはしてないけど、そんなのされたら好きになるでしょ。そういう人の温もりを知ることができました。
ちなみに自粛中はどうやって過ごされていたんですか?
LEO:もともと週2回スタジオに入るのがルーティーンだったけど、マスコミから逃れるために2週間ほど休みました。僕も逮捕された奴の家族ごと伊豆に連れてって、その息子と一緒にテニスしたり勉強を教えたり。そんな生活をしてたんですが、とりあえずスタジオに入ろうぜと。もうALIには戻れないかもしれないけど、組んだ時みたいにゼロからやりゃいいじゃんって日課を戻して。その時に付いて来れなくなった奴からお別れしていきました。とにかくずっと練習は続けていて、変わらず楽曲制作もしていたし今年1月にリリースした「MUSIC WORLD」というアルバムの母体も作りました。
自粛期間中もみんな前を向いてたんですね。
LEO:前向きというか、純粋に音楽だけ。
苦しい思いもたくさんしてきたと思いますが、みなさんは音楽の力を感じる瞬間ってありますか?
LEO:あります。基本的に演者は曲を聴いてくれる人を救う側だけど、僕らはリアルに「LOST IN PARADISE」のストーリーに救われたので。大谷翔平くんが曲を使ってくれて、しかもMVPを獲ったことで、本当に音楽に救われるっていう現象が起きたんです。音楽の中に神様を見ちゃいますよ。僕らの中では「LOVE・MUSIC・DANCE」が神様の名前で、ライブはそれを讃える教会のような感覚です。
CÉSAR:謹慎中も音楽をやっている時はすべてを忘れられました。
LEO:人生上手くいかないこともあるけど、夢中になれる瞬間があって、何も考えずに没頭できることがあるのは素敵なことだよね。僕らには音楽があって本当に良かった。
ALIさんは日常の出来事を曲に落とし込むことも多いですよね。
LEO:リアルな感覚を備忘録のように曲へ落とし込んでいます。初めて参加したフェス『KOBE MELLOW CRUISE』も、その時の熱気や匂い、景色が後から思い出せるよう「MELLOW CRUISE」という曲を作りました。
曲作りはどのようにされているんですか?
LEO:スマホのボイスメモに残しています。メロディを口ずさんでいるだけのものもあるし、ギターを弾いてる時もあるかな。このメモを中心に曲のディティールを共有して、みんなの好きなものを集めながら作っている感じかな。「ストリングスを考えてるんだけどディスコっぽいのある?」って聞いて、2人ともネタを出してくれたりとか。基本的にみんなで作っています。
スマホ1つからALIの世界が展開されていくと。3人それぞれキャラクターみたいなものは確立しているんですか?
CÉSAR:LUTHFIさんは愛?多様性担当です。
LEO:複数の人と同時に恋愛をするポリアモリーという考え方があって。彼もそういう考えを持っていて、パートナーも子どももいるけど「男性も気になる人がいる時があるんだ」ってずっと言っていたんです。最初に聞いた時はびっくりしたけど。愛が溢れているんです。
CÉSAR:去年の『KOBE MELLOW CRUISE』の1日目に「僕もナンパしたくなってきた」って言い始めて奥さんに「ナンパしていい?」って連絡して。そしたら奥さんから「いいよ〜」って返ってきてました。奥さんも寛容みたいですね。
(笑)
CÉSAR:そこから超楽しそうに声掛けまくって、最終的に2人で神戸のクラブに行きました。
LEO:半ば命令だよね。お前ら色気を増やすために、遊んでこいと。
CÉSAR:一緒に入ってすぐ「ナンパしようぜ」って解散したんです。だけどその後「バーカンに来い」とLUTHFIさんに電話で呼び出されて、行ったら女の子が2人いて「この子たちに酒奢るからお前もなんか飲め」って言われて。所持金を全部はたいてレッドブルウォッカを4つ注文してくれたんです。だけどみんなで乾杯した瞬間、蜘蛛の子を散らすみたいに女の子がどこかに行っちゃって。LUTHFIさんはそこからずっとメンチ切って怒っていました。普段は吸わないのにタバコ吸ってたりとか(笑)。明け方に連れて帰ろうと思って見守ってたらピークタイムがきて、「みんなジャンプするからしゃがめー!」ってDJが言ったんです。そしたらパンパンのフロアにいる人がみんな座っていって、一体感やば!と思って見ていたら、1番後ろでLUTHFIさんが立ったまま中指を立てていました。僕はそのLUTHFIさんを回収して帰ったんですが、「今日は車で寝る」ってふてくされてて(笑)
LEO:その日が僕らの『KOBE MELLOW CRUISE』の本番で、終わった後CÉSARのお母さんのお店で打ち上げをしたんです。ちゃんとロックバンドしてる感じしますよね(笑)
ALIさんのライブパフォーマンスってかなり激しいので、どうしてスーツなのか気になりました。スーツへのこだわりはあるんでしょうか?
LEO:ジャズマンとかTHE SPECIALSっていうバンドとか、好きなミュージシャンがみんなスーツを着てるからっていうシンプルな理由です。組み合わせやTPOを考えなくていいから楽っていうのもあります。
CÉSAR:僕らはパンクバンドのつもりでライブをやっているので。
LEO:死ぬ気でやらないと相手に伝わらないから。何をすればウケるとか喜ぶとか考えながらやっていると、見ている人はわかっちゃう。お客さんが5人でも50人でも1万人でも、それが今日のこのライブっていうのは変わらなくて、ただ全力で出し切るだけです。チルなバンドとひと括りにされることも多いけど、ライブに対するマインドはハードコアの人たちに近いのかなと。その場で命をさらけ出し、剥き出しにして全力で表現するっていう。
ライブを観ていてそれが伝わってきました。それぞれの音楽のルーツも知りたいです。
CÉSAR:サンバやボサノバ、ディスコ、ソウルがずっと流れているお店のベビーベッドで育てられたのもあって、ブラジル音楽のリズムは身体に染み付いています。楽器を始めたのは、中学生の時にTHE BEATLESに出会って衝撃を受けたことがきっかけ。そこから高校生でジャズにハマってレコードを掘るようになって、その時のめり込んだ60年代から70年代のレコード音楽は今でも僕の軸になっています。レコードは家に3,000枚くらいあって、ヴィンテージ楽器も集めていますね。
LUTHFI:僕が生まれ育ったインドネシアには、野外でスピーカーから音楽を流して、大人も子どもも関係なくみんなで踊る文化があるんです。そこで流れるインドネシアのポップスやジャワ島の伝統的な曲のリズムって、メロディラインがスペインの曲のパクリだったりして。ラテンのリズムみたいなものは刷り込まれていると思います。
CÉSAR:LUTHFIさんが楽器を始めたのは高校生の時ですよね。ずっとダンスをしてたのに強制的にバンドに入れられて、ベースを強制的にやらされるようになって。それがまさかのヴィジュアル系バンドで、ナイトメアやELLEGARDENのコピバンをしてたんですよ。
LUTHFI:ヴィジュアル系バンドで培った命を燃やす鼓動は、今でも受け継がれていると思います。
LEO:僕はジャンルを問わず幅広く聴いてきたけど、DJカルチャーの影響は多大ですね。大貫憲章さん主宰の『LONDON NITE』というイベントによく行っていて、そこでDJ音楽が好きになりました。父親もDJをしていたみたいだから、無意識に惹かれるのかもしれないけど。子どもの頃はゲイやドラァグクイーン、黒人・白人……、いろんな人がいるヒッピーハウスみたいなところに住んでいて、そこはいろんな音楽が溢れていたんです。その頃から、どこか甘くてセクシーな香りがするクラブミュージックに馴染みがありました。僕らの音楽がクラブシーンにハマるのは、そんな背景があるからかもしれない。幼少期から身近にドラッグがあったり、銃で撃たれて死んじゃったおじさんがいたり、嘘みたいな現実が曲作りに与える影響も大きいです。
なんだか映画のような話ですね。
LEO:だけどそれは紛れもない現実で、僕にとってのリアルなんです。CÉSARも言ってたけど、今までしてきた様々な経験が僕らを形成しているんだなと思います。
ALI
Vo.のLEO(中)、Gt.のCÉSAR(右)、Ba.のLUTHFI(左)からなるバンド。様々な国にルーツを持つメンバーを集めて2016年に結成され、メンバーの脱退などを経て現在は3人組に。テレビアニメ『BEASTARS』のオープニングや『呪術廻戦』のエンディングを担当したことでも知られている。
松本 いづみ(ライブ写真)