この味、この場所、この想い。『casual KAPPOU iida』の飯田恭央さん、次はどんな道を歩んでいくんですか?


僕は、おいしいは懐かしいに直結すると思ってる。

クビになってから急展開でオープンしたわけですが、店を始めることに不安はなかったんですか?

特に不安はなかったし、カッコイイ店にする自信はありました。まぁ、全く根拠のない話ですが。不器用だけど人と喋ることが好きだったから飲食店で働いてたのもあるし、接客面においてもお客さんに喜んでもらえるんじゃないかとは思ってましたね。今考えると荒削りだったし、調子に乗ってたんやろなーって。

根拠のない自信を持ってないと独立なんてできませんからね。ましてや26歳の若さだし。急展開の中、お店の構想はどんなことを考えてたんですか?

日本人なんで、和食にするのは決めてました。実家で作ってるお米も使うつもりだったんですが、オープンの少し前に父親がガンになったと連絡があったんです。おかげさまで今は回復して元気になってますが、「とりあえずお米をいっぱい売れば少しは足しになるだろうし、生きる気力にもなるかな」と思ってましたね。

あの塩むすびは名物の一つですもんね。元気になって良かったです!和食にするのは決めてたそうですが、その中でも割烹というスタイルにしたのは?

前職の店の師匠に割烹を教えてもらってたんです。師匠からは「お客さんが食べたいものを当たり前のように出すのが割烹だ」と教わっていました。コース料理だけの店なら割烹とは名乗れないし、例えばお客さんが昼間に刺身を食べたから、夜は肉が食べたいと言った時に「はい、ありますよ!」と答えられる。「ちょっと多いから、持ち帰り用に包んで」と言われても対応できる。それが割烹だと、僕は教わってきたんです。

好みに合わせて、お客さんに寄り添うってことですね。

カジュアルと名付けたのは、価格帯もそうだし、僕らのこのラフなスタイルもあるから。10年前くらいからくずし割烹というのもあったし、カジュアルな方が僕らしいかなと思って。

店が持つスタイルとか空気感とか、飯田さんらしさが出てるなって思います。それに、やっぱりごはんがうまい!

5年かけて『casual KAPPOU iida』としての味になったなと。お食事は毎日のものだし、そこが一番大切な部分。今日食べても次の日にまた食べたくなる、そんな気持ちになってもらえるように仕込みも調理もしてますね。僕は、おいしいは懐かしいに直結すると思ってるんです。僕はキャビアを食べても「懐かしい!」って思わないし、フォアグラを食べても「また明日も!」って思わないから、店で出すことはありません。例えば、「めっちゃうまいウニを用意して!」と言われても、「それなら、ウニをしっかり味わえる店に行った方がいいですよ」って普通に伝えますからね。それよりも、白ごはんとなめこの味噌汁、わかめの酢の物、鯖の塩焼きとかをバランス良く食べる方がいい。

「おいしい=懐かしい」って、確かにそうかも。食の好みは人それぞれある中で、毎日食べるものや毎日食べたいものは、そこが原点な気がします。

いっぱい食べても胃もたれしないし、化学調味料も使ってない。冷たいものは冷たく、温かいものは温かく、当たり前のことを手間暇かけて作る。お客さんに「おいしい!」と思ってもらうことが全てだし、それだけを突き詰めて5年間やってきましたね。

シンプル・イズ・ベスト!その普遍的なことを突き詰めるのはめっちゃ大変だけど、だからこそ『casual KAPPOU iida』の味になっていったんですね。この5年間でいろんな経験をしたと思いますけど、店を構えて良かったと実感することやツライこともいっぱいあったんじゃないですか?

挙げればキリがないですね。正直、オープンして1年間のことはあんまり覚えてないし…。いろいろ言われても自分のスタイルは曲げずにやってきたから、今があるのかなと。30歳という節目で独立する人は多いですけど、僕は偶然にも26歳で店を構えられた。その4年間のアドバンテージがあるのは、ちょっとラッキーやなと思ってます。後は、両親に少しだけですけどお小遣いを渡せるようになったことかな。

確かに4年という歳月の差はデカイですよね、特に若い時は。しかも、コロナ禍という大変なことも経験しました。当時、他の飲食店はテイクアウトのお弁当などを提供してましたが、飯田さんはそうではなく、お店で食材を販売されてましたよね?それも飯田さんらしいアプローチだなと思ったんですが、その意図って?

単純に仕入れ先の八百屋さんが困ってたので、とりあえず買えるやつを全部買ったんです。その八百屋さんも農家さんが困ってるから仕入れたけど、飲食店が買わないから野菜がめちゃくちゃ山積みになってて…。「買ってほしい」なんて一言も言われてないけど、カッコつけで人にモテたい性格が出ちゃって、いっぱい買いました。それが、マーケットを始めたキッカケですね。

自分の性格のせいにしてますけど、大変な状況はお互い様だからなかなかできないことですよ。

めちゃくちゃシャイなのに目立ちたがりなんでね、つい(笑)。まぁ、とりあえず買ったものの、「さぁ、どうするか」って感じでした。お弁当にしなかったのは、100%の状態で作っても、10分後には95%、1時間後には75%…という感じでおいしさがどんどん下がってしまうから。それなら下処理して80%まで仕上げた状態でレシピと共に提供すれば、お客さんが自宅で100%にすることができるなと。ステイホームと叫ばれてた時期だし、自宅で料理も楽しめるうえ、「やっぱiidaは違うな」と感じてもらえると思ったんです。

お客さんとしても下処理された食材を選ぶ楽しさ、作る楽しさ、そして味わう楽しさも得られる。あのマーケットはスゴイなと思いました。他にも朝食やうどん、コロッケをしてる時もありましたね。

今、僕らができることをしてきただけですよ。僕自身、何事も「何で?何で?」って気になるタイプで、知りたがり。「あれはどんな原価率かな?」「あのオペレーションはどうなってんの?」って感じで、気になることは実践して調べたくなる。コロナの時期にうどんを始めたのも、いろいろ調べて「器があればできるやん!じゃ、やろか」みたいな。できることをする、ただそれだけですよ。それに、自分で店を構えてから気持ちの持ち方も変えるようにしたんです。

どのように変えたんですか?

正直、これまでは働いてても100%の楽しさはなかったんです。もちろん、楽しい局面はありましたけど、そうじゃないこともたくさんあった。だからこそ、自分の店を構えてからは、何があっても楽しんでやると決めたんですよ。どんなことがあっても顔には出さず、楽しんでニコニコする。「飯田、悩みあるん?」って聞かれるくらい(笑)。そう決めたから、コロナ禍の時も自分にできることを楽しみながらやってただけなんです。

もし誰かに無理と言われても、「まだ実現してないだけです!」って言えばいい。

新しいお店『casual KAPPOU iida 2』の話を聞く前に、これからを担うであろう若手のメンズスタッフのことも伺えればと。

飯田:石田翔大は2021年の7月から。山内稜は2022年の3月からで、実は明日が初出勤の日なんですよ。

そうなんですね、今日は会えなくて残念。では、翔大さんにいろいろ聞きますね。どうしてこの店で働きたいと思ったんですか?

翔大:飯田さんが買い物されている堀江のショップ『THE GROUND depot.』に僕も通ってて、よく話を聞いてたんです。学生時代に居酒屋でバイトしてたり、ちょっと自炊する程度なんで料理は全然できなかったんですが、行ってみたいお店だなと思ってました。結局、一回も行けてなかったんですが…、インスタでスタッフを募集されてたので速攻でDMしたんです。すると、次の日に当時バイトしてた難波の『Brooklyn Roasting Company』に、いきなり飯田さん現れて…。しかも、キャップ被ってサングラスして、マスクもつけて変装してるっぽい感じやったんですが、すぐ分かりました(笑)

どんな子か気になって見に行ったんですね。

飯田:インスタ見てだいたいは分かったけど、どんな感じで働いてるんかなと。

翔大:めちゃビックリしましたけど、すぐ走り寄って「飯田さんですよね?DMさせていただいた石田です!」って伝えました。

スタッフの石田翔大さん。難波の『Brooklyn Roasting Company』ではバリスタも務めていた。

飯田さんから見た印象はどうでした?

飯田:『THE GROUND depot.』で服を買ってるのは聞いてたし、オシャレでアクセもつけて、ちょっと自分に過信してるヤツやなと。調子乗ってて、うわついとるなと。でも、いい目をしてるとは思ったかな。

だそうですよ、翔大さん!

翔大:ありがとうございます!!それで数日後に面接に行ったんですが、お店に入って10秒後くらいに「君にしようと思ってる」と言っていただけて。そこから働かせてもらうようになりました。

実際に働き出して感じることは?

翔大:考えや行動の甘さを実感しますし、厳しく教えていただいてるのも自分のためを思ってだと感じてます。料理のことだけではなく、人生において大切なことを教えてもらってるなと。例えば、先輩や目上の方との接し方、言葉の使い方など、すごく細かい部分までですね。他の店では教えてもらってなかったことばかりで、毎日が勉強の日々です。

飯田:声が小さいねん(笑)

だそうですよ、翔大さん!お店では基本的には接客担当ですが、料理の手伝いなどもしてるんですか?

翔大:いえ、お客様に提供するものはまだです。でも、魚を捌く練習はさせてもらってます。

飯田:鯵とか僕よりも捌くのが上手くなってますからね。翔大のおかげで、鯵フライもメニューの仲間入りですよ。

翔大の鯵フライ!一つ一つ階段を上っていく感じで、できることが増えていくといいですね。この先どうなりたいとか、翔大さん自身の目標ってあるんですか?

翔大:最終的には自分の店を持ちたいと思ってますが、まだまだそんなことも考えられないくらいのレベルなんで、まずは目の前のお客様と向き合い続けること。そこを大事にしたいと思ってます。

ちゃんと目標を見据えて、日々を積み重ねていく。自身の現在地も分かりつつだから、しっかり前に進んでると思いますよ!ちなみに、稜さんはどんな方なんですか?

飯田:正直、まだ分かんないです。でも、iidaで働きたくて後先考えずに福岡から出てきたようなヤツなんで、まぁ察してください(笑)。一緒に働いてみないと何とも言えないですけど、素直なヤツだとは思いますよ。衝突して離れるか、絆が深まるか、それはこれからのお楽しみです。翔大と稜もどんどんぶつかっていいし、取っ組み合いのケンカをしてもいい。その時は僕が両方をシバきます(笑)

これからもっと、いい感じのグルーヴが生まれそうですね(笑)

飯田:僕も適材適所を考えて、それぞれが成長できる場所にしたいと思ってます。僕にしかできないこともあるし、もちろん翔大や稜にしかできないこともあるのでね。特に翔大の場合、今はツライこともあるかもしれんけど、2〜3年頑張った後にiidaの旧店舗をまだ契約してたら、任してもいいと思ってるんで。個人事業主としてコーヒー屋さんしたいならやってもいいし、可能性だけはいっぱいあるからさ。

翔大:はい、ありがとうございます!!

飯田:だから、声が小さいねん(笑)。もし誰かに無理と言われても、「まだ実現してないだけです!」って言えばいい。僕も調子に乗ってると言われたことあるけど、どうせいつか乗れなくなるんやったら、乗れる時に乗っておかないと。若い時に調子に乗りつつも、しっかり目標を持って進んでる方が、重厚感のある大人になれるんちゃうかなと。これはあくまで僕の主観ではあるし、翔大は自分の考えで行動すればいいけどね。まぁ、気合いやで気合い!

翔大:はい!!

飯田:おぉ、いい声やん!

程よい緊張感は保ちたい。お客さん側もお店側もお互いをリスペクトし、そのうえで空間や時間を共有する。そして、若い子がデートで使った時に、ちょっと胸を張れるような店にしたいなと。
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Profile

飯田 恭央

兵庫県豊岡市出身。18歳で大阪に出てきて、26歳で谷町6丁目駅の近くに『casual KAPPOU iida』をオープン。2022年4月1日に2店舗目となる『casual KAPPOU iida 2』をオープンする。休日はNETFLIX三昧か、友だちと自宅のバルコニーでBBQしてのんびりチルするのがもっぱら。

Shop Data

casual KAPPOU iida 2

大阪府大阪市中央区上町1-1-1 1階
TEL/080-2423-4590
営業時間/18:00〜24:00
定休日/水曜・日曜・祝日

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