「アパレル辞めて、珈琲とたまごかけごはんの店を始めました」『zawa』店主ざわさんのこれまでとこれから。
試行錯誤の中で見出した「珈琲」と「たまごかけごはん」のかけ算。
ざわ:ただこの福島の街で、小さいビルの3階で、自分で焙煎しているわけでもない珈琲をやるだけでは、とうてい人が集まるとは思えませんでした。そこでこうちゃんとああでもない、こうでもないって言いながら試行錯誤をして。
河野:ハンバーグ焼いたりもしたよな(笑)。
ざわ:したした(笑)。その中で僕がかなり昔に思いついていた「オシャレなたまごかけごはんのお店があったらいいのにな」というアイデアを思い出したんです。
たまごかけごはんは好きだったんですか?
ざわ:はい、それは好きでしたね。珈琲と違って(笑)。でもそれが2019年の10月くらいで、zawaのオープンが11月ですからギリッギリなんですよ(笑)。
そこから1ヶ月で今の形に?
ざわ:原型はそうですね。生産プロセスやホームページでビビビッと来た養鶏場の卵をかたっぱしから取り寄せて、美味しかったら電話をして「取り扱わせてもらえませんか?」って言って、一つ一つ銘柄を決めて行きました。
河野:そのタイミングでみかちゃんとも出会ったんです。
楠本:MIHEYの展示会をやる場所をスペースレンタルサービスを使って探していて、GrowLevel galleryを見つけて。
河野:何の面識もない状態だったんですが、実際に会ってMIHEYを見せてもらったら、めちゃくちゃしっかりとクリエイションをしていることがわかりました。それで一度展示会をやらせてもらって、同時にホームページの改善なども僕の会社でやらせてもらって……それからは僕から一方的に「あれやらして、これやらして」と言ってブランドのムービー制作なんかを手伝わせてもらってます(笑)。
楠本:いやいや、本当にお世話になってます。
その中でざわさんとも絡むようになった?
楠本:そうですね。展示会の時にはじめてお会いして、そこで珈琲も出してもらいました。
ざわ:それこそ井尻さんのところで珈琲を取り扱わせてもらえることになった時だったので、味も悲惨だったし、たまごかけごはんの構想さえない時期でした。
楠本さんにとって、ざわさんってどんな人ですか?
楠本:はじめは無口でクールな人だと思ってたんですけど、付き合ってみると全くそんなことはないなって思うようになりました。ただ未知数のところも多く、私にはまだざわさんの底が見えていませんね(笑)。
「当時の自分には何もなかった。けど、このままじゃ嫌だなって思ったんです」
それにしても、アパレルを10年以上やって、そこから「珈琲とたまごかけごはん」なんて尖ったスタイルのお店をやるって、かなり思い切りましたよね?
ざわ:思い切れた理由の一つはタイミングですね。24歳くらいからずっと「いつか自分の店をやりたい」って思いをくすぶらせながら働いて、それがzawaを始めた31歳の年で限界を迎えていました。そのタイミングでこうちゃんという人間とまた会うようになったり、GrowLevel galleryのこのスペースが空いたり……本当に色々なタイミングが噛み合った。
あとは人生の岐路でもあったんですよ。
どういうことですか?
ざわ:東京の本社から引き合いがあったり、他のアパレル企業からお誘いをいただいていたり。あとは保険会社の営業に誘ってくれていた人もいました。なかには給料や福利厚生など条件的にかなり良い話もあったんです。ぶっちゃけ、そういう意味ではzawaが一番賭けだった。
にもかかわらず、どうして今の道を選んだんですか?
ざわ:一つは年齢的にチャレンジするなら今だと思ったからです。あとは長いこと会社組織で働いてきて、自分が好きなことじゃないとモチベーションを保てない人間だということに気づいたからですね。さっきも言ったみたいに、会社の仲間や上司には恵まれていて、今でもすごく感謝しています。でも自分の感覚と頭で納得できないと、手が動かないんです。そのまま当時の仕事を続けるのは嫌だったし、自分の中ですごく違和感があって。だから条件の良し悪しではなく、自分が惹かれるかどうかで今の道を選びました。
うまくいく自信はあった?
ざわ:全然、まったく(笑)。今でこそMIHEYのムービー制作を手伝わせてもらったり、カメラを勉強したりして、少しずつできることは増えてきましたが、当時の僕には店頭の販売で培ったノウハウくらいしかありませんでした。他にVMDなどの仕事もしていましたが、結局1つの会社での経験だったので「会社を移っても通用する」という自信はなかった。
アパレルの販売と、珈琲とたまごかけごはんでは、かなり分野が違いますしね。
ざわ:だから、うまくいく自信どころかめちゃくちゃ不安でしたよ。正直、立ち上げから3ヶ月くらいは精神的にかなり追い詰められていて、朝起きたら手が痺れていて、うつ病の初期症状みたいなものも出てきていました。
……これ、今はじめて人に話したんですけど。誰にも言えなかった。言ったら挫けてしまうような気がしたから。
そのとき、心の支えにしていたものはありましたか?
ざわ:この仕事を続けていたら「なにか」がある、という期待感。そしてそう思わせてくれる人たちの存在です。
詳しく教えてください。
ざわ:zawaを始めてから、本当に色々な人に出会うことができました。みかちゃんもその一人ですし、例えば手縫いの革靴を作っている竜崇縫靴店(りゅうそうほうかてん)の堀場さんと久保さんもそうです。
ものすごく心が追い詰められていた時期も、彼らとラーメンを食べに行ったり、話をしたりする時間に本当に励まされていました。竜崇の二人に関していえば、僕が毎日履いていて、zawaでも受注販売している手縫いのレザーサンダル<zawa no slipper>を作ってもらったときは、「このスリッパを履いて、絶対に頑張るんだ」と思えました。
そういう人たちと出会って、支えてもらって、時には一緒に仕事をすることで、自分の未来が開けていくような、そんな希望を感じていたから、なんとか持ちこたえられたんです。彼らには感謝してもしきれません。
ざわ
大阪文化服装学院を卒業後アパレル企業に就職するが、31歳の時に学院時代の友人で経営者の河野伸平さんの言葉をきっかけに珈琲とたまごかけごはんのお店zawaを開業した。「本質は変態」(河野さん談)。