「0円で古着を売る」ってどういうこと?空堀で0円ショップを開く『青山メリヤス』山田麻理子さんが考える、0円の価値と未来。
0円で買えるものって、なんだと思いますか? いきなりナゾナゾや哲学のような入りですが、ふとそんなことを考えてしまうお店が、谷町六丁目・空堀にあるんです。古い長屋が残る一画、その表通りからひとつ入ったそのまた奥にある『青山メリヤス』は、0円の古着と、“ど下手リメイク古着”と称する服や小物を販売するお店。謎が謎を呼ぶお店ですが、実はスタンダードブックストアへの出店やイベントの主催など、かなり精力的に活動されているんです。なぜ0円の古着を販売するのか。ド下手なリメイクとは何なのか。6月にオープンしたばかりの長屋のお店へ伺って、青山メリヤス・山田麻理子さんにインタビューしてきました!
移住先の福井で始めた、7LDK一軒家の『0円ショップ』。
麻理子さんと会ったのは、心斎橋PARCO4階のスタンダードブックストア&friendsでの展示が最初。そのときに、ゆるすぎる古着リメイクに衝撃を受けて、ぜひお話を聞きたい!と思って取材させていただくことになったんですが、まず『青山メリヤス』を始めたきっかけを教えてください。
もともと福井で、0円ショップをやってたんです。そのあと、大阪に帰って来てたまたま天王寺のスタンダードブックストアに行ったら、店主の中川さんがいて。私0円ショップやってたんですって話をしたら、「君面白いな、心斎橋で展示してみいひんか?」って言われて、じゃあやりますっていう感じで心斎橋PARCOでの展示が決まりました。
中川さんとは、もともとお知り合いだったんですか?
一方的に知ってはいましたけど、会うのはその時が初めてでした。スタンダードブックストアで扱っている「途中でやめる」というリメイクブランドを私も以前販売していたので、その流れで0円ショップの話をしたんだと思います。そしたら、君もなんかリメイクしたらいいんちゃう?って言われて。
それでいきなり、心斎橋PARCOでの展示が決まったと。古着リメイクの経験はあったんですか?
ぜんぜん、やったことなかったですね。裁縫も、小学校の時に習ったきりで。でも最初は、PARCOって聞かされてなかったんですよ。心斎橋の廊下みたいなところでやるからって言われただけで。それが後から聞いたら心斎橋PARCOで、そんなん人めっちゃ来るやん!と思って、慌てて作り始めました。
リメイクって、そんなに簡単にできるものですか?
できましたね、意外と。手縫いなんですけど、絵を描くみたいに、思いついたのをそのまま縫っていくような感じで。下の生地まで縫ってしまったみたいな失敗以外は、ほどくこともないです。
ちょっと話は戻りますが、福井でやっていた0円ショップというのはどういうお店ですか?
旦那が「農業やりたい」って言いだして、福井に移住したんです。福井の地域おこし協力隊に参加して農業をすることになって。私はフリーターやったんで、一緒に行ったけど福井ですることないんですよ。なんか時間がもったいないなと思って、コミュニティの場所を作ろうと思ったんです。そのために、最初は服を安く仕入れて売ろうと考えたんですけど、これ0円にしたらどうなるんやろうと思って「0円 服」で検索したら、ドイツでは0円ショップが60店舗ぐらいあるっていう 『ビッグイシュー』の記事がヒットしたんですよ。それ見て、これや!やるしかない!と思って、小浜市に7LDKの一軒家を借りました。
7LDKの物件を借りて、0円ショップを通じてコミュニティを作ろうと試みたわけですね。
そうですね、ちょうど0円ショップを始めようとしてるときに、リメイクブランド「途中でやめる」の山下陽光さんが京都に来るって聞いて、福井から会いに行ったんですよ。私は山下さんのこと全然知らなかったんですけど、旦那が知ってて、これは会っといたほうがいいみたいな感じで。それで、山下さんに0円ショップやるんですって話したら、山下さんも高円寺でやってたらしくて、いろいろ教えてもらったんです。「ズボンは売れへん」とか(笑)。話も面白かったし、リメイクで作ってる服もすごかったから、山下さんの「途中でやめる」も売らせてもらうことにして、0円古着と有料のハイブリッドショップみたいな感じになりました。
古着はどうやって仕入れたんですか?
地域おこし協力隊の人がやってるカフェで知り合った人が、引っ越すからあげるって服を20袋ぐらいくれたんです。最初はそこから始めました。
実際に0円ショップは、地域のコミュニティみたいな感じになりました?
いろんな人が来ましたよ。近くに看護学校があったからそこの学生さんとか、隣町のおばあちゃんが軽トラ乗って来たり。年齢も20~40代とかけっこう広かったです。月1回は2階でDJイベントもしてました。でも近所におばあちゃんが住んでるから、うるさくしないように、サイレントで(笑)。ラジオを20台ぐらい用意して、ヘッドフォンとかイヤホンで聞くんです。
旋風を巻き起こしてますね。福井には、どれぐらいいたんですか?
2年ぐらいかな。ちょっと体調を崩してしまって、大阪に戻りました。
警察とも仲良くなった、アメ村・三角公園での路上『0円ショップ』。
大阪でも0円ショップは継続されてたんですか?
その時はマンションに住んでたから、家ではできなくて。でも0円ショップはやりたかったので、アメ村の三角公園で路上売りしてました。銅像の下で服を並べて、0円って。そこでいっぱい面白い人と知り合いになりました。
アメ村の路上0円ショップ。それもすごいですね。
最初はみんな「えっ?」って反応なんです。0円、怪しい……みたいな(笑)。大阪はそもそも0円ショップもないから。警察も来て「許可取ってるんか?」ってなったんですけど、売ってるわけじゃないので、「まあいいよ」ってなりました。
商売してないから! そうですよね、そもそも0円ショップって、利益も0円ですよね。
そうそう、「なんで0円?利益ないのに」って言われるんですけど、利益とか考えたらこんなことしないです。
稼ぎたいとかは、ないんですか?
ないですね。世の中に0円のものがないっていうのが不思議で。スーパーでも、0円ってないじゃないですか。0円のものを何かやりたいなって考えたときに、自分の場合は服だった。もったいないとかそういう感覚じゃなくて、ただ単に面白いと思ってやってるんですけど。
金銭的な利益とは、また違う価値みたいな?
なにかできそうな予感というか、なにか変わる感じがこの先あるような気がするんです。たまにやめようかって思うときもあるけど、やっぱり絶対0円ショップは続けたほうがいいと思うんですよね。
たしかに、コロナ禍もあって、既存の価値観が揺らいでる感じはあります。
うん、時代の変わり目なのかなって気はしますね。
ギャルソンが250円になったときに、揺らいだ価値観。
もともと、ファッションは好きだったんですか?
服は好きですね。昔はギャルソンをよく着てたんです。でもすごい高いじゃないですか。それが、たまたま日本橋の中古ゲーム屋に行ったら古着も扱ってて、その中にギャルソンがあったんです。でも値段が書いてなくて、お店の人に聞いたらタグをちらっと見て、「250円です」って。ギャルソンってわかってなかったんです、お店の人が。その時に、価値ってなんなのかなって思ったんです。
ブランドタグを外した、服そのものの価値みたいな……。
なにを私は買ってたのかなって。もちろん、デザインとか生地とかはいいと思うし、いろんな人が関わっての値段だとは思うけど。でもそれはもう、自分はいいかなって。そこからどんどん着るものの値が下がって、今は0円ですね。
麻理子さんのド下手リメイクは、どうやって値段をつけてるんですか?
最初にPARCOに出店したときは、スタンダードブックストアの中川さんと弟さんと相談して決めました。「3,000円は高いな。最初やし1,500円ぐらいちゃう?」って感じで。
かかった時間や手間の分を乗っけようとかは特に考えず?
それをしたくないんですよ。時間=お金って考え方が嫌で。かかった時間をお金に換算すると、みんな価値が一緒になってしまう。1時間1,000円で、3時間かかったから、じゃあこれは3,000円みたいな。それは面白くないので。だから、勘ですね。
勘で、値段を。
そう。でも一回、値上げしたことあるんです。「自分がすごく上手にできたと思うものは、1万円でもつけたほうがいい」って言われて。でも、人に言われたから値上げしてしまう自分がめっちゃいやになって(笑)。もう高くするのはやめました。仕入れも100円ぐらいなので。
0円古着とは別で、仕入れをしてるんですか?
仕入れてますね。まあ、めっちゃ安いですけど。0円でもらったものをリメイクして売るっていうのも、違うかなあと思って。
『青山メリヤス』は、父の工場の名前。やりたいことはまだ無限にある。
PARCOに出店したときの反響は、どんな感じでした?
自分がリメイクしたものを売ったのは初めてだったんですけど、めちゃくちゃ売れました。30着ぐらい持って行ったら、初日にほぼなくなってしまったんです。どんな人が買ってくれてるのか気になって見てたら、50代ぐらいの人が、“婆”っていう漢字を縫い付けたコートを買ってくれたんです。え、これ婆って書いてますよって言ったら、「それがいいのよ」って言われて。すごいおしゃれな人だったんですけど。PARCOのお客さんは、お金持ちそうな、何かやってそうな雰囲気の人が多かったですね。
私も一着購入したんですけど、トータルかなり売れた感じですか?
そうなんですよ。PARCOがきっかけで、自分でもお店やろうかなって思うようになりました。PARCOの売り上げもあることやし、マンションから引っ越せるやん!と思って。そしたらちょうど、この物件が見つかったんです。
今はこのお店のほかに、イベントや展示もかなり積極的にされてますよね。
天王寺のスタンダードブックストアに出店させてもらったり、お店のイベントに呼んでもらったりしてますね。そういえば、自分でリメイクするようになって、ここの出店はプラスになったなとか考えたりしてるから、人間って怖いですね(笑)。
ちなみに、青山メリヤスという屋号はどこから?
父親が『青山メリヤス』っていうニットの工場をやってたんです。機械でニットを編む会社で、もう何年も前に倒産したんですけど、その名前をもらって使ってます。
お店もオープンされたばかりですけど、これからやりたいことってありますか?
めっちゃあるんです。0円ショップとリメイク以外のこともやっていきたい。まだ具体的には全然わからないですけど、やりたいことはまだまだあります。何かをやめるかもしれないし、始めるかもしれない。なぜか行動力だけはあるので、思いついたらパーっとやると思います。
山田 麻理子 yamada mariko
大阪府出身。福井県小浜市に、0円で古着を販売する『0円ショップ ゆらり』を開き、大阪に戻ってからも『青山メリヤス』としてアメ村の路上販売などを続ける。2021年11月心斎橋PARCOへの出展を機に、「ド下手リメイク」をスタート。現在は出店のほか、VJの夫と共にイベントも主催。
青山メリヤス
〒542-0012 大阪府大阪市中央区谷町6丁目11−29
営業時間・定休日等はInstagramに掲載
【直近のスケジュール】
●出店
7月21日(水)~(2週間程度)心斎橋PARCO 4階 丸福珈琲店内 スタンダードブックストア&friends
●イベント「生物都市」
8月7日(土)12:00~20:00 ヤドカリ食堂(北区天神橋4-2-19)