ずっと物足りない、つまらない。「満たされなさ」を推進力にするアーティスト・きゃらあいの未来。


ちゃんと大阪の人なんです。作品にもけっこう大阪の風景を描いていて、浜寺公園の運河から見える工場とか。

拠点を大阪から東京へ移されましたが、東京に来たのはどんなきっかけですか?

大学時代から展示のたびにちょこちょこ来ていて、こっちに住み始めたのはコロナ禍のちょっと前くらいですね。きっかけは別になくて、当時は彼氏だった夫が東京住みだったので、3カ月ずつくらいで東京と大阪を言ったり来たりしてたんですけど、2020年になってコロナ禍で物理的に帰れなくなっちゃって。それで、そのまま東京にいることになって。

東京に出る!みたいな感じではなかったんですね。

そうなんです。自分の中では心はずっと大阪にあるから、すごい不思議な感じで。でも展示の活動とかは東京が多いので、「あれ、関西の方なんですか?」ってよく言われます。

東京に来てからのほうが活躍の幅は広がってるように見えますが、その辺はどうですか?

それはありますね。コロナ禍でアート業界が盛り上がってた時期があって、そのときにいろいろな展覧会に呼んでもらう機会が増えて。それによってこれまで以上に描く量がすごく増えたので、そのぶん技術が上がったりとか、自分の中で考えが整理されて次のステップに進めたりとか、そこで今の絵にぐっと移行できたかなと思います。でも、大阪に帰りたいっていうか、孤独なんですよね東京は。
友達も基本は大阪にいるし、実家の家族も大阪にいるし、すごい孤独でさみしいです。絵もひたすら家で描いてるから、本当に会う人が夫だけみたいな。コロナ禍もあって東京に住んだ時点で動けないっていう状況が2年くらい続いたせいで、余計インドアになっちゃって。東京にいるのにどこにも行かない。

アートシーンとしては東京のほうが活気がありそうだし、横のつながりとかもあるのかなと思ってました。

東京のほうが人が多いし、絵を買う人も多いので、活躍するためには東京で活動するのは重要だと思うんですけど、いかんせん人とのつながりが大阪より希薄なので。市場はあるけどコミュニティはないっていうか。活動の上では意味があるけど、人生の豊かさみたいなのは大阪のほうがあるのかなって。
大阪の『アトリエ三月』っていうギャラリーに大学生の頃から通ってて、そこではオーナーさんとか作家さんとかとよく話して、すごい心の活気をもらってたんですよ。不安になったら相談できるし、1人じゃないっていう安心感もあったんですけど、東京では今のところ私にはそういう場がないので。絵の制作にはある程度の孤独も大事だけど、社会に関わる中で、見つかるものや感じられる大切な事はたくさんあると思ってるので、そういうのがないから今はけっこう苦しいです。

人や社会とのつながりが作品にも反映されるんですね。

だから最近は、やっぱりコミュニティを持ちたい、参加したいということをよく考えます。コロナ禍も過ぎて気持ちはそれなりに外向きなんですけど、以前より仲間がいないなと言う感覚があって。知り合いの中には、作家をやりながら自分のギャラリーを営んでいたりしている人もいて、それはすごくかっこよくて羨ましいなと思います。もし今後、私が主体のコミュニティを持つことになったら、それは東京なのか大阪なのかはたまたインターネットの中なのかはわからないけれど、自分の人生を豊かにするものであってほしいなと思います。

中学時代にSNSを始めたきっかけもそうですが、仲間というのは、きゃらあいさんが活動する上ですごく重要なんですね。ただ、きゃらあいさんはそんなにザ・大阪っていう感じでもないので、大阪が恋しいというのがちょっと意外でした。

ちゃんと大阪の人なんです。作品にもけっこう大阪の風景を描いていて、浜寺公園の運河から見える工場とか。東京に住み始めた2020年頃に、地元の風景をめちゃめちゃ描いてました。いま住んでいるところの近くに荒川の河川敷があって、そこから見る風景が地元と似てるんです。ちょっと汚れた川と、高速道路っていうのがすごく好きで。東京に来てもこの景色が身近にあったので運命を感じて、いっぱい描きました。

地元は、大阪の堺市ですよね?

堺市です。堺を走ってる電車の絵も描いてて、南海電車と阪和線と、チンチン電車の阪堺線。大和川の上を、3つの電車が走ってるっていう作品です。

すごい、めちゃめちゃ地元愛ですね!

たまにYouTubeで、大阪の電車の動画を見たりしてます。ええなあ~って(笑)。離れてみてわかりましたね、いいところに住んでたんだなって。子供の頃を思い出してモチーフとかを描いたりするので、大阪の身近にあったものとかはすごくにじみ出てると思います。

作品だけを見てると、南海電車や浜寺公園が描かれてるとは思えないですね。これからやってみたいことや、挑戦してみたいことってありますか?

なにかあるかな…。いま取り組んでるのは、言ったら恥ずかしいですけど、もうちょっと人気になりたいなと思ってます。人気というか、SNSで認知されたいなって。フォロワーが増えたら、また新しい何かが始まるかもしれないから、好きだけど嫌いなSNSとも向き合いたいなと思います。
あとは、とにかく絵を良くしたいですね。9月末からの展示用にドローイングをたくさんしてるんですけど、量を描いてみようと思っていっぱい描きました。絵を描くことにモヤモヤしてた時期からやっと抜け出せたので、すっきりした状態でたくさん絵を描いて、そこから見えることを考えたいなっていう時期です。

こうなりたいというより、そのときそのときを全力で消化しながら進化する感じなんですね。でもこのホテルでの展示もそうですが、もう十分すぎるほど活躍されていると思います。1室がまるごと作品になるなんて、すごいことですよね。

すごいことだと思うんですけど、でもやっぱり物足りなさって出てくるんですよ。客観的にみればある程度いろいろやらせてもらえるなってわかるんですけど、自分の中ではずっとまだまだだなって思っちゃう。そう思うことも大事なんですけど、思いすぎて凹むこともあるから、そういうところは治したいなって思います。

でも、その物足りなさがあるから、がんばれてる部分もあるかもしれないですよね?

そうですね。だから、ちゃんとずっと描き続けられるんだろうなっていうのはあります。ぜんぜん満足しないから。苦しいんですけど。実は今も、絵を描くことは楽しいのに、ちょっとつまらない気持ちがあって、アトリエ三月のオーナーさんに電話して、「めっちゃつまんないです、どうしよう」って相談して。

楽しいと思えていることがつまらないみたいな?

そういう気持ちが強いんです、もっと楽しいことがあるんじゃないかって。でも、今の環境も、ちゃんと味わえるようにしたいと日々思ってます。すぐ忘れて、心のゆらぎがきちゃうんですけど。忘れがちなんです、今のことを。本当にそこが自分の重要課題です。

常に忘れたり、ゆらいだりしながら、なんですね。

だからこそ、そういうテーマで描く必要があるのかなと思ってます。


<きゃらあいさんのお気に入りスポット>

浜寺公園(大阪府堺市)
中学の帰りに友達と行って、暗くなるまでよく喋ってました。公園の中から工場がよく見えるんですけど、その風景も大好きで。昔からあった大きい噴水が今年の春に行ったらなくなってて悲しかったんですけど、そこで水遊びをしてた女の子たちがいて、いいなと思って作品に描きました。


<INFORMATION>

きゃらあい個展「生の記憶、平らな記録」

2会場連動開催

会場1

期間: 2024年9月25日(水)~10月14日(月・祝)
時間: 10:00~20:00 ※最終日のみ17時閉場
場所: 京都 蔦屋書店 6F アートウォール(京都市下京区四条通寺町東入ル二丁目御旅町35)
入場: 無料
特集ページ: https://store.tsite.jp/kyoto/event/t-site/42434-1143360829.html
主催: 京都 蔦屋書店
協力: 和田画廊
お問い合わせ: 075-606-4525(営業時間内) / kyoto.info@ttclifestyle.co.jp

会場2

期間: 2024年10月2日(水)~10月14日(月・祝)
時間: 11:00~19:00 
場所: AMMON KYOTO(京都市中京区三条通河原町東入中島町87)
入場: 無料
Instagram: @ammon_gallery

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Profile

きゃらあい

大阪府出身、京都造形芸術大学(現:京都芸術大学)アートプロデュース学科卒業。『ゆらぎの中にいる自覚』を主なテーマとしている。SNSで多様な価値観に触れられる時代、さまざまなものを吸収して、何が正しいのか、自分の意見や属性すらも分からなくなる浮遊感が自身の中に根強くあり、作品制作はそれを受け止める器にもなっている。幼い頃に親しんだ少女漫画のような大きな瞳や、ファンシー雑貨のような色彩など、独自のキャッチーさで鑑賞者を引き込み、描かれた人物と対話ができるような作品づくりを続けている。

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