めざしたのは、「広場としての食堂」。子供のためのアートを実践してきたアトリエスタが考える、新しい「場」のカタチ。
2020年オープンした大正区の複合施設『TUGBOAT_TAISHO』。尻無川の水辺空間に個性的な飲食店が集結、新しいスポットとして注目を集めています。今回取材したのは、フードホール『新カモメ食堂』に出店している<アトリエスタ食堂>。このお店を運営するアトリエスタは飲食業者ではなく、子供のためのアートを実践するNPO法人なんです。子供×アートの団体が、なぜ飲食店を? そんな疑問を抱いて、主宰の西田順治さん・カタオカシンジさんにお話しを聞いてきました。
いかつめのお父さんが「ええやんけ!」って子供の絵を褒めて、一緒に描き出したんですよ。それ見てもう感動して。
アトリエスタは「子供×大人×アートな遊び」をテーマに活動されていますが、立ち上げのきっかけを教えてください。
西田: 2012年に、大阪市内のまちおこしイベントでワークショップをやるために集まったのが最初でした。なにやろか?ってみんなで話し合う中で、僕が提案したのが「場づくり」と「子供」。ちょうど311の震災のあとで、自分たちが社会のために何ができるかを考えて、グローバルよりローカルを意識するようになってたんです。だから、僕らは教育を学んだ専門家ではないけど、地域のおっちゃんとして、子供たちが元気に育っていける場所を作れるように、できることをしようと思ったんですね。会場がたまたま幼稚園だったこともあったし、ちょうどいいかなと。で、実際にやってみたら、めちゃくちゃ楽しかったんですよ。
本当は、その1回のイベントで終わるはずだったんですか?
西田:だったんですけど、やってみて、これは課題解決になるんじゃないか?と思ったんです。参加した子のなかに絵を描いたことがない子がいて、その子は「お兄ちゃんが描いて」「お兄ちゃんが色を選んで」って自分ではやらない。彼の家では、絵は専門の人間が描くもの、おしゃれな人間やチャラい人間が描くものみたいな無言の圧力があったみたいなんですね。でもその子から描いてみたいっていう気持ちは感じたから、じゃあ一緒にやってみようって、竜を描いたんです。そしてたらすごくいい絵ができて、見に来たお父さん、なかなかワイルドな感じの方だったんですけど、「ええやん、お前やるやん!」ってなって。お父さんも一緒に描きだして、最後は絵の具でどろどろになるワークショップもやったんですけど、「服なんかなんぼ汚してもええ!」ってすごい楽しんでくれたんです。
お父さんもアートの楽しさに目覚めた。すごい、めっちゃいい話ですね。
西田:こういうことが、その日あちこちで起こってたんです。多くの家庭や親子関係の課題解決が同時多発的に行われていたら、それは地域全体の課題解決につながるんじゃないかって思いました。僕らがやってることって、いわゆる家でも学校でもない「第三の場所」になるんじゃないかと。だから、これを1回で終わらせるのではなく、次もどこかでできる努力をしようと、NPO法人化することにしました。
神社でイベントするときレギュレーション決めましょうって相談したら、宮司さんから想像もしない答えが返ってきたんですよ。
場づくりを継続していくためにNPO法人化されたんですね。
西田:とは言え、基本はお声が掛かったところに行くっていうだけだったんですけど。でもその流れの中で多くの人とつながりができて、だんだん会場もグランフロントとか、規模が大きくなってきたんです。そうすると、予算が発生するようになって。そうなったらNPOでは受けにくいので、アンドハコ.ラボラトリーという会社を作りました。
最初から規模を大きくしたい!と思ってたわけではなく?
西田:アトリエスタも最初から継続ありきではなかったし、会社も歩きながら悩みながら、結果としてこうなったという感じです。ただ、会社ではあるんですけど、多くの社員を抱えて、この部署はこのワークショップを担当、この部署はこっち……みたいな形にはしたくないんです。それはアトリエスタのやりたいことではないし、いま参加してくれてるアーティストは絶対に来てくれない。市場があって予算があって目的はこれ、そこに対してこれだけの成果を出してくださいっていう仕事は、アーティストの仕事ではないんです。
アーティストは、先生ではないということですか?
西田:これを作りましょうって工程が決まって説明書があるワークショップなら手軽にできるんですが、僕らがやりたいのは、これ何?どうやったらできるの?ここに材料あるから一緒に考えようっていうプログラム。だから1~2時間かかる子もいれば、すぐ飽きてどこかに行ってしまう子もいる。でも、そこも全部、アーティストに任せてるんです。
ワークショップ本来の、体験としての学びの場、みたいな。
西田:僕らはよく神社でイベントをさせてもらうんですけど、石切神社の宮司さんに言われたことがあるんです。イベント前の打ち合わせで、現場でアーティストがどこまでやっていいのか、レギュレーションだけ決めさせてくださいとご相談したことがあって。そしたら、想像もしない答えが返ってきたんです。「雷は神様がお怒りになって天から音が鳴る、だから怖いんです。でもテレビや動画で見た雷は、ただの知識であって、体験していないから怖くない。本当の怖さは、子供が身体を通じて感じるもの。デジタライズされた世の中で、子供たちに“雷”を教えることができるなら、いくらでもやってください」って。
子供たちに未知なるもの、本物を体験させてくれ、ってことですよね。
西田:すごいなあって。ビジネス的な感覚とは全く違う発想ですよね。神社さんって皆さんわりとこういう考えを持っておられて、アートは神事だと仰る方もあるし、僕もアーティストはどこか神を降ろすようなところがあると思う。子供たちに体験という価値を与えられる場所として、神社とアートは親和性があるんです。地域とつながる入口にもなりますし、神社はすごく可能性のある場所だと思っています。
知らない人同士がテーブルをくっつけて、いつの間にか一緒に飲んでる。こういうことは、ショッピングモールでは起こらないんです。
そんなアトリエスタが、なぜ飲食店やることに?
カタオカ:もともとイベントでマルシェをやってたし、僕が農業支援とか六次産業サポートをしていた関係もあったんですけど、あくまでもアトリエスタの「場所づくり」として、飲食店をやりたいなと。それと、イベント事業で利益を出すには入場料をとったり助成金をもらったりしないといけないですけど、お金を生む事業を並行すればイベントも続けていけるし、働く場所も作れるかなと思って。それで、TUGBOAT_TAISHOができるときに声を掛けてもらって入りました。
TUGBOAT_TAISHOへの出店は、どんな経緯で決まったんですか?
西田:ここを運営する株式会社RETOWNの松本社長に声を掛けてもらって、直接お話したら、大正区はじめ大阪の地域課題についてすごく考えておられたんですよ。この地域の価値を上げて、地域と共に成長する場所を作りたいと。そのためはファストフードを入れるわけにはいかないんですと仰って。それなら、僕らも一緒に何かできるんじゃないかと思いました。
アトリエスタとして参加する意味がある、と。
西田:「広場を作りたい」という思いが同じなんです。この施設にはDJブースやライブスペースもあるんですけど、収益を考えるならテナントを入れたほうがいいですよね。入れるテナントも、ビジネスだけを考えたら僕らより、飲食専門の会社のほうがいいと思います。でもそれをしないということは、目指すところが本質的に近いのかなと。
カタオカ:今まで僕らいくつか飲食にトライしてるんですけど、「アトリエスタ」の名前を付けたのはここが初めてなんですよ。ここに呼んでもらったことで、僕らもマルシェとワークショップを同時にできて、飲食を通じてみんなを集められる場所を持つことができた。こういうことしたいなと思ってことが、やっと叶った気がします。
実際オープンして、どんな場になっていますか?
西田:イベントとかすると、家族連れ、タトゥーの若者、近所のおっちゃん、いろんな人が思い思いにくつろいでいて、隣り合わせた人同士がなんとなく一緒にお酒を飲み始めたりするんです。こういうことって、ショッピングモールではなかなか起きませんよね。ここは、でっかいテーブルを出して、みんなで一緒に食べよう!っていう感じなんです。テーブルがみんなを集める装置みたいな。今はなかなかイベントも簡単にはできませんけど、食があって、音楽があって、いつもお祭りみたいなことをしていたら、もっといろんな人が来てくれるかもしれないなと思います。こういう場が賑わっているっていうだけでも、地域の活性って見えると思うので。
地域のポテンシャル=子供のポテンシャル。だから、より多くの地域でたくさんの子供と関わっていきたい。
最近は、行政とタッグを組んだ活動もされてますよね?
カタオカ: 奈良県にある三宅町とアートプログラムに関する包括提携を結んで、子供たちが誇りに思えるまちづくりのお手伝いをさせてもらってます。三宅町は日本で2番目に小さな町なんですけど、町長さんが若くて、クリエイティブなネットワークの広い人なんです。関西トップクラスの人たちが関わってて、江崎グリコさんとか大手企業とも協働されてるんですよ。
いつの間にか、すごいところまで来ましたね。
カタオカ:ほんとに。僕らずっと愚直に広場を作って、親子関係をよくするお手伝いができたらって活動してたんですけど、気が付いたら社会活性企業みたいになってました。
西田:時代が少しずつ変化して、活動を認めてもらえるようになったという感覚はありますね。ジェンダーやSDGsに対する関心も高まってるし、社会の仕組みを変えたいと思ってる若い子も増えていると感じます。
たしかに、大手企業に就職して一生安泰みたいな価値観は、薄れつつあると思います。
カタオカ:コロナ禍も大変は大変ですけど、でも何もなくてオリンピックをやっていたら、ただお祭り騒ぎのバブリーな感じで終わってたと思うんです。僕らの親世代は、またあの景気のいい時代が来ると期待していたかもしれない。でもコロナ禍を経験したことで、社会の雰囲気もみんなの意識もまた変わりましたよ。311の震災があって、いまコロナがあって。2回目のパラダイムシフトがきた感じがします。
たしかに、コロナ禍で価値観が大きく揺らぎました。そんな状況の中でここから先、どんな未来をイメージされてますか?
西田:僕ら、大阪市の放課後いきいき活動教室事業にも参画していて、大阪市内のいろんな小学校でアトリエスタのワークショップをやらせてもらってるんですよ。そしたら、地域によって子供たちの状況がぜんぜん違うんです。ある学校ではみんな塾に行くのが当たり前で、ある学校では日本語を話せない子が大半とか。格差があるのを感じます。でもこれからの時代を生きる子供たちは、自分で課題を見つけたり、解決していく力が大切だと思うから、そこをサポートするために僕らは何ができるかを考えていきたい。子供ってソーシャルな存在じゃないですか。だから、より多くの地域に関わることで、地域のポテンシャル=子供のポテンシャルをあげることをやっていきたいですね。
カタオカ:子供たち、みんな可愛いんですよ。言葉がわからなくても、一緒に過ごす時間をすごく楽しんでくれますし、帰るときいつもちょっと寂しくなりますね。だから、アトリエスタの活動を継続するためにも、飲食事業でしっかり稼いで、働く場・帰れる場を作ることもしっかりやっていきたいですね。
ちなみに、お二人で10年以上活動されてきて、もめたり喧嘩したりしたことはないんですか?
カタオカ:僕らね、自分のことオアシスやと思って活動してるんですよ。リアムがめちゃくちゃしても、兄貴のノエルがいるじゃないですか。
西田:お互いUKロック好きがきっかけで仲良くなったんですよ。だからいまだにそのノリでやってる。僕らが喧嘩しても、それはリアムとノエルの喧嘩で、好きなことをお互いやってるけど根っこの部分は一緒やでって感じです。
アトリエスタ
西田順治(右)・カタオカシンジ(左)
2012年「ひがしなり街道玉手箱」でのワークショップを皮切りに、「こども×おとな」をアートでつなぐイベントを開催。その地域の活性と、こどもとおとなの未来創造を目的としたプログラム開発事業を行っている。現在は地方自治体・アート施設・神社・公園のほか、フリースクール・児童保養キャンプ・企業や商業施設のイベントスペースなど、多岐に渡った活動を展開。
直近のイベント情報等はインスタグラムから。
アトリエスタ食堂
〒551-0001
大阪府大阪市大正区三軒家西1-1-14 TUGBOAT_TAISHO B-5
営業時間 12:00~23:00[L.O. 22:45](土日祝 11:00~23:00)
※緊急事態宣言中は土日祝 11:00~19:00のみ営業
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