Interview & Writing
鈴木 直人
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森下 ひろき

大阪・京町堀のクリエイティブスペース『neji』で6月1日〜7月2日まで開催中の、1周年企画展「ねじ・ネジ・捻子」展。その中心に立っているのが、絵本作家・イラストレーターの北村人さん(中央)。

イラストレーターとしては盲導犬協会のTVCMや星野源さんや池上彰さんの著書の挿絵のお仕事を、絵本作家のお仕事としては自著の『カシャッ!』、故本田いづみさんが文を担当した『万次郎さんとおにぎり』などがあります。

そんな北村さんに惚れ込んで、今回の企画展を持ちかけたのが『neji』のオーナーである森下ひろきさん(右)と、企画展のポスターやツールなどのデザインを手掛けたのが、アート・ディレクターの竹広信吾さんです。

今回は北村さんのこれまでを紐解きながら、今回の企画展を開くことになった経緯や、そこに込めた想いについて語ってもらいました。

「きっかけは友人が褒めてくれた“下絵”だった」北村人さんがクレヨンで絵を描くまでの経緯とは。

まずはみなさんの自己紹介からお願いします。

北村:北村人と言います。鎌倉を拠点に絵本作家とイラストレーターをしつつ、神戸芸術工科大学で非常勤講師もしています。生まれは西東京で、小学校3年くらいの時に相模原に引越して、それからはずっと神奈川県民です。

竹広:竹広信吾です。株式会社ストライプスというデザインの会社を京町堀でやりながら、週に二回は大阪芸術大学短期大学部で特任准教授として1〜2年生にデザインの基礎を教えています。

森下:森下ひろきと言います。竹広さんと同じく、京町堀で株式会社ダブリューアールという広告制作会社を経営しながら、この『neji』のオーナーをしています。ちなみにMARZELのプロモーションも担当しています。

クレヨンで描かれる、北村人さんの作品たち。

北村さんの作品はどれも独特な素朴さがありますが、今のクレヨンで描くスタイルができあがったのはいつ頃なんですか?

北村:大学の終わりのほうですね。大学に入ってすぐの頃はアクリル絵の具を使って描いてたんですが、そこからちょっと個性の出し方がいったん変な方向にいったんです。

変な方向とは?

北村:当時の僕は「人と違った工程を踏めば、人と違ったものができる」と考えてたんです。だからホームセンターみたいなところに行って、ヘラとパテ(建築に使われるペースト状の充填材)を買ってきて、そこにアクリル絵の具を混ぜて、木製のパネルに塗って絵を描くということをしていました。

それってどんな作品になるんです?

北村:ガッチガチの壁みたいなものができあがります(笑)。それをずっと卒業近くまでやってたんですが、ある日イラストレーターをしている友人が家に遊びに来た時に転機が訪れます。

僕は描き始める前にコピー用紙に下絵を描いて、それを壁にしていくという手順を踏んでいたんですが、友人がその下絵を「これすげえ面白いじゃん。持って帰っていい?」って言い始めたんです。

「え、そっち?」みたいな。

北村:そう(笑)。でも同時に「持って帰りたくなるくらい、価値を感じてくれたのか」と驚きました。そこで次の年くらいに下絵状態のものをコンペに出したら、なんと入選したんです。

当時は木炭で下絵を描いていたんですが、入選した後くらいから同じ描き味でカラーで描ける画材はないかと考えた結果、今のクレヨンに落ち着いたという感じです。

「森下さんの熱量が嬉しくてやりたいと思った」初の関西での企画展に踏み切った理由。

そこから様々な書籍の挿画や、絵本の作画を手がけていくことになるわけですね。でも北村さんは鎌倉、森下さんは大阪・東京が拠点ですよね。どうしてこの2人がタッグを組むことになったんですか?

森下:僕がどうしても北村さんと組みたかったからです。『neji』の二階は僕が経営している株式会社ダブリューアールのオフィスなんですが、この建物に入居が決まった時に「一階を単なる打ち合わせスペースにするのはもったいない」と思ったんです。どうせなら、クリエイティブな物事が起きる場所にしたいと思って。

そこで生まれたのが、カフェ兼ギャラリーの『neji』だった。

森下:はい。でもコンセプトは決まっても、お店のロゴやツールなんかはデザインを誰かに協力してもらう必要があります。そこで北村さんのホームページのMailに、直接長文のメールを送りつけた(笑)。

いきなり!?

森下:僕の中ではACの盲導犬協会のCMのイラストを北村さんが手掛けたということを知った時から、「いつかこの人と仕事がしたい」って思ってたんです。

それはどうして?

森下:北村さんの絵のどこか完成していないというか、粗さが残っているようなクリエイティブにすごく惹かれたからです。『neji』も完成されたクリエイティブを見せる場所というより、できていく途中をこそ体感できる場所にしたかったので、頼むなら北村さんしかいないと思いました。

森下さんと古くて、濃くて、どろどろした付き合いをしている竹広さん。

竹広さんと森下さんの関係は?

竹広:僕と森下さんは、もう20年以上前の付き合いなんですよ。森下さんはクラブや飲食店を経営している会社のスタッフで、僕はそこでDJとしてイベントをしたりしていて。

森下:当時の僕はその会社で大手広告代理店の人たちと一緒に、広告の仕事を手伝わせてもらい始めた頃でした。そしたら彼がデザインができるというので、僕が担当していたプロジェクトのデザインを彼にお願いしたんです。

竹広:森下さんの家に呼ばれたら、ピザが買ってあって、それを食べて話してたら「お前、食ったな?じゃあ今日は朝までデザインやるか」って言われたりして(笑)。

森下:古くて、濃くて、どろどろした付き合いです(笑)。

またその話も別の機会に聞きたいです(笑)。北村さんは森下さんから長文メールをもらった時、どう思いましたか?

北村:嬉しかったですよ。でも僕の仕事は遠隔でもできるので、言ってしまうとそういうメールは日常的に受け取っていたんです。ただ森下さんがすごいなと思ったのは、ちょうど最初の緊急事態宣言が明けたくらいのタイミングで、お仕事をお受けする旨の返信をしたら、鎌倉まで来てくださったんです。

森下:北村さんから返事が届いたとき、僕と竹広くんは「マジで返信きたぞ!やったー!」ってなってました。

北村:でもあの状況で鎌倉に来るって、怖かったと思うんです。まだわからないことも多かったし。なのに森下さんは来て、話してくれた。

森下:あのとき、鳩サブレー家屋さんの隣の喫茶店で打ち合わせしたんですよね。

北村:そうそう(笑)。その熱量が嬉しくて、改めて初の関西での企画展を森下さんと一緒にやりたいと思ったんですよ。

「一生やってられると思うくらい、描いていて楽しかった」北村人さんの“思考と創造のあいだ”。

今回の「ねじ・ネジ・捻子」展ではどんな作品が見られるんでしょうか?

北村:僕が文と絵の両方を担当した絵本『カシャッ!』、故本田いづみさんが遺された文をもとに作った新作『万次郎さんとたぬきのこ』からの作品と、今回の企画展のために描いたオリジナル作品20点程度。あとは色んなお仕事でボツになったイラストも持ってきています。

オリジナル作品が見られるのはもちろんですが、ボツ案が見られるのも面白いですね。

北村:そうですね。普通のギャラリーだったらディスプレイも、もっと整然と並べたり、壁ごとにジャンルを分けたり、額の高さも合わせたりするんですが、今回はあえてランダムな並びにして、『neji』らしくなればと。だからかなり自由にやらせてもらいましたね。

森下:先ほども言いましたが『neji』では、完成品より、その途上にあるものを見せたいと思っていて。だから今回の企画展には未完成のイラストも持ってきてもらったり、入り口横の壁にぶっつけ本番で絵を描いてもらったり、色々な仕掛けを用意しています。

創造の過程でこぼれ落ちた「ボツ」にも、魅力はたんまりある。

20点のオリジナル作品には何かコンセプトがあるんですか?

北村:あえて決めませんでした。「この企画展のために描いた」なんて言うと、何か意味をつけたくなっちゃうんですけど、今回はそれよりも創作のプリミティブな部分―――「絵を描くって楽しい」を先行させた感じです。実際、一生やってられると思うくらい、描いていて楽しかったんですよ。だからコンセプトもないし、統一感もなくって。

森下:おかげで今回の企画展では北村さんの“思考と創造のあいだ”が垣間見えているように思います。コンセプトっていうものに縛られずに、頭を空っぽにして描きたいものを描き続けるというところが、北村さんらしさというか。

『neji』の壁に直接絵を描く北村さん。

森下さんの狙い通りになった、という感じですか?

森下:そうですね、僕が一番楽しんでるかもしれない。好きな作家さんの創作を横で見ていられるわけですから。あの壁の絵とか、絶対消したくないなって思っちゃう(笑)。

北村:普段僕は下書きもせずにいきなりコピー用紙にクレヨンで描き始めるんですが、その場合は描き損じたら別の紙に描きなおせばいいんです。でも壁の場合は別の壁に描きなおすわけにもいかないので、さすがに緊張しましたね。

「ねじ・ネジ・捻子」展の会期中、北村さんに直接会えるチャンスってあるんでしょうか?

北村:最終日の7月2日には必ずいます。その時に来ていただければ、お話はできるのかなと思います。

おお、それは楽しみですね!今日は北村さんだけでなく、竹広さん、森下さんもありがとうございました。

北村・竹広・森下:ありがとうございました。


<企画展情報>
北村人「ねじ・ネジ・捻子」展
会場:neji(ネジ)
会期:2021.06.01(月)-07.02(金) 11:30-18:00(無休)
入場無料 ※cafe営業時間中はお1人様1ドリンクのオーダーをお願いします。

大阪府大阪市西区京町堀1-8-26 UTSUBO Terrace Bldg.1F
地下鉄四つ橋線 肥後橋駅7番出口 徒歩5分
地下鉄御堂筋線・四つ橋線・中央線 本町駅28番出口 徒歩6分
地下鉄御堂筋線・京阪電車 淀屋橋駅12番出口 徒歩9分
06-6449-9700


Profile

北村人 Jin Kitamura

1981年東京生まれ。鎌倉を拠点に活動するイラストレーター・絵本作家。イラストレーターとしては盲導犬協会のTVCMや星野源著『そして生活はつづく』や池上彰著『池上彰のやさしい経済学1文庫版』などの挿絵を、絵本作家としては自著の『カシャッ!』、故本田いづみさんが文を担当した『万次郎さんとおにぎり』などを担当。

http://jinkitamura.com/

Gallery Data

neji(ネジ)

〒550-0003
大阪府大阪市西区京町堀1-8-26 UTSUBO Terrace Bldg. 1F
tel. 06-6449-9700

http://www.neji-kyomachibori.jp/

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