Interview & Writing
前出 明弘

書籍だけにとどまらず、WEBや広告、映画などのさまざまなシーンで新たな詩の在り方を世の中に届けてきた現代詩人・最果タヒの“詩の展示”が、福岡、渋谷、名古屋に続いて3月5日から心斎橋PARCOで開催!会場の至る所で表現されているのは、訪れた人に読まれて初めて意味を持つものであってほしいと願う、“詩になる直前”の言葉たち。歩き回りながらいくつもの言葉を追いかけ、いつの間にか自分にとっての大切な言葉と出会っている。そんな詩の展示や言葉への想いについて、会期直前のタイミングでインタビューを敢行。ジャンルを横断して活動する彼女にとっての、今そこで生まれる言葉とは。

その人がいいと思った言葉が、その人の記憶に残る。その場にいることで完成する詩を、展示で表現したかった。

今回の展示「われわれはこの距離を守るべく生まれた、夜のために在る6等星なのです。」でも、本や画面から言葉が飛び出し、さまざまな表現で展示されてますね。

最初に展示をしてみないか、と横浜美術館から依頼を受けたとき、言葉は本で読めるし、その形式にちょうど良さも感じているので、あえて展示をするなら、展示でしかできないこと、必然性がなければならないと思ったんです。本と違って、展示はその場に行かなくてはならないし、その瞬間しか見ることができない。それで思いついたのが、詩をモビールで吊るすというアイデアでした。その場にその人が立つことで完成する詩を、モビールなら作れる、と思ったんです。

なるほど。そのアイデアについて詳しく聞かせてください。展示テーマは“詩になる直前”の言葉たちですが、そこにはどんな想いが?

モビールには詩の断片が掲載されていて、常に裏表や左右のモビールが入れ替わり、言葉の並びが変わります。パッと見て、「なんかいいな」と思った言葉がその人の中に残るけれど、その並びやどの言葉の流れを選ぶかはその人がその時にその場にいないとありえないことで、読む人がいてやっと完成する詩が、そこにはあると思ったんです。
「人がそのときその場にいて完成する詩」というのは、他の展示作品においても重要なテーマになっていると思います。

“詩になる直前”の言葉がテーマのモビール展示。写真は渋谷PARCOの展示より。

その場にいるそれぞれの人に、それぞれの体験が生まれる。見るだけじゃない、生まれるという体験がこの展示ならではですね。

本で詩を読むときも、読む人によって、そして同じ人でもそのタイミングによって、詩の見え方が全く変わっているんだなと気付かされることがあります。読むという行為自体が受動的なものではなく、とても能動的なものなんだと私は思います。

ほんと楽しみにしてます!今回の展示でもたくさんの言葉との出会いがありますが、今の時代は特に、誰でも自由に言葉を発信できるようになりました。そして、コロナ禍という大きな変化もありました。そうした中で、言葉に対して想うことはありますか?

昨年の5月ごろからは、やはりみんなが一つのコロナという問題に向き合っていて、でも、一つの問題を共有しているようでその影響は人によって全く違っていて、その違いが無視されがちであることが気になっていました。みんなでこの問題に立ち向かおうという意識の中では、SNSなどで他人に伝わる言葉をしゃべらないといけないとか、共感してもらわないといけないとか、自分で自分を追い詰めてしまうような空気があるように思えて。けれど、人は互いを完全に理解し合うことなんてできないし、誰かに伝わることだけがその人の全てであることは決してなくて、誰にも分からなくても、言葉を発することで自分の気持ちを整理できたり、物事に距離をおける瞬間があると思うんです。そういうことが、どんどん難しくなってる気がその頃はしました。

立体物として言葉が記された、“詩と身体”の展示。さまざまなカタチで浮かび上がる言葉と対峙できる。

確かに。言葉という自由なものが、窮屈になってきているというか。

そういう時期に、映画や音楽に触れると自由さを取り戻せるような気持ちになりました。「これがいい!」と思った時の気持ちは自分だけのものだから、他人に何を言われても平気だと思えます。他者の視線がどうでもよくなる瞬間がそこにはありました。ちょうど京都の展示の中止が決まったのもこの頃でしたが、また展示ができるなら、そういう瞬間のある空間が作れたらいいなと思いました。

自分の気持ちや考えは込めず、どう読み取られるかも考えず、自分の意識よりも先に生まれてくる言葉を書きたい。

Photo: Eisuke Asaoka

書籍、WEB、広告、音楽、アートなど、ジャンル横断的に詩を書かれていますが、いつもどんな心情で言葉たちを生み出しているんですか?

なるべく何も考えない状態というか、「さぁ書くぞ!」と思いながら書いてはいないです。そんな風になると頭や言葉が固まりすぎて、書き手の意図を説明するような言葉になってしまう。書く上でもそれはとても退屈だし、読む人にとっても楽しくないと思うので。

自分の気持ちや考えは、込めない?

もともと、何かを説明したり伝えたりするために用いられる言葉が昔から苦手でした。道具としての言葉になってしまって、少しも自由に思えなかったんです。詩を書くと、自分の思っていたところではないところに言葉が行き着いたりして、そのことにとても鮮烈さや自由を感じます。だから自分の気持ちや考えは込めず、どう読み取られるかも考えず、自分の意識よりも先に生まれてくる言葉を書きたいなって思っています。私は不器用なので、誰かの気持ちを動かすとか、読む人の感情をコントロールできるとは思えないですし、むしろ真っ白になっていくことを理想としています。例えば、絵を描く人が言う「すーっと気持ちいい線が描けた!」みたいな感覚と似ているかもしれません。

左は、いくつもの詩を本棚に並ぶ本の背表紙に見せる“詩ょ棚”。右は、陰影が新たな言葉の意味を届けてくれそうな“詩の存在”。

言葉に意図を込めないから、読む人にとって自由な解釈が生まれると。

そうかもしれません。言葉って一つの意味だけがそこにあるのではなくて、人によってその言葉をどう思うのか、どんな印象を持つのかは結構バラバラで、その揺らぎが、作品に影響を与えていると思うんです。見る人やタイミングによって、詩が違う姿を見せることがあるとしたら、それはきっと詩が、その人に溶け込んでいくように近づいているはずなんです。それが私にとっての理想です。今回の展示も、根幹の部分はきっと同じなのだと思います。読んだ人の数だけ、完成する詩があるのだと思っています。

ターゲットという概念すら存在しないってことですね。だから、読む楽しさも深まるし、広がる。ちなみに、詩を書く場所も限定しないんですか?

書く場所は決まってないですね。決めてしまうと、緊張してしまうので書けなくなるんです。できるだけ集中しづらい場所の方が、集中できる気がします。ガヤガヤした場所だと言葉は簡単には出てこないですが、その分出たときのスピード感はより増しているように思うんです。

言葉はいつだって自由。世の中に合わせてチューニングしていたものが、はずれていく瞬間が皆さんにも訪れたらいいなと。

今回の展示は、渋谷PARCOや名古屋PARCOよりもスペースが広いと伺いました。

かなり広くなりました。その分、モビールの数を増やして、見応え、読み応えのある展示にしたいと考えています。

大阪限定のグッズもあるんですよね?

これまでも作ってきた、言葉を切り抜いた「詩そのものカード」の新しいバージョンが追加されます。また、阪急電車の駅に書き下ろしの詩のポスターが貼り出されていたのですが、それらの詩5篇をポストカードにして、そちらも発売される予定です。

これまでの作品集をはじめ、オリジナルクッズや大阪限定グッズが多数スタンバイ。

関西人は“限定もの”に弱いですからね。楽しみにしています!最後に、今回の展示を待ちわびている関西の皆さんにメッセージをお願いします。

いつもたくさんの言葉が飛び交う街の中にいると、言葉に侵食されていくというか、言葉そのものに疲れ果ててしまう時もあると思います。どの言葉に共感するか、それを選ぶことだけが「自我」の全てになってしまうような息苦しさ、というか。この展示も言葉をたくさん用いていますが、でも、詩の言葉は共感を求めるというより、それを読んだその人だけの言葉になる瞬間を待っているものだと私は思っています。自分を縛るのが言葉ではなくて、言葉があるからこそ自由になる瞬間があるんだって私は思います。言葉との距離感が、街の言葉とは全く違う、そういう場を目指しているので、ぜひ見に来てほしいです。
私自身、本や音楽に触れると、もともとの自分に戻ることができるように思うんです。それは、世の中に合わせてチューニングしていたものが、はずれていくような瞬間。その瞬間が、この展示でも作れたらいいなと思っています。

中学生の時に書き始めたブログ日記をキッカケに、詩人として現代の感情を繊細かつ鋭く表現し、活動の幅を広げ続ける最果タヒ。今回の展示では、彼女から生まれる言葉たちを追いかけていくインスタレーションを通じて、自分の中だけに完成する詩、自分の心が動く瞬間、あるいは無意識のうちに読み上げている感覚、そんな言葉との新たな出会いがたくさん生まれると思います。「言葉はいつだって自由」だから、今この時、この場所で、思いっきり言葉を楽しんでください!展示会場の併設ショップではオリジナルグッズも販売されるので、そちらもお見逃しなく!

Profile

最果タヒ

1986年生まれ。2006年、現代詩手帖賞受賞。2008年、第一詩集『グッドモーニング』で中原中也賞を受賞。2015年、詩集『死んでしまう系のぼくらに』で現代詩花椿賞を受賞。その他の主な詩集に『空が分裂する』『夜空はいつでも最高密度の青色だ』(同作は2017年石井裕也監督により映画化)。エッセイ集に『きみの言い訳は最高の芸術』『「好き」の因数分解』、小説に『星か獣になる季節』『十代に共感する奴はみんな嘘つき』などがある。作詞提供もおこなう。清川あさみとの共著『千年後の百人一首』では100首の現代語訳をし、翌年、案内エッセイ『百年一首という感情』刊行。2017年にルミネのクリスマスキャンペーン、2018年に太田市美術館・図書館での企画展に参加、2019年に横浜美術館で個展開催、HOTEL SHE, KYOTOでの期間限定のコラボルーム「詩のホテル」オープンなど、幅広い活動が続く。最新詩集は『夜景座生まれ』。今春にエッセイ集『神様の友達の友達の友達はぼく』が発売予定。

http://tahi.jp/

Exhibition

最果タヒ展 われわれはこの距離を守るべく生まれた、夜のために在る6等星なのです。

場所:大阪市中央区心斎橋筋1-8-3 心斎橋PARCO 14F パルコイベントホール
会期:2021年3月5日(金)〜3月21日(日) ※会期中休館日なし
料金:一般 800円、ミニ本付チケット 1,800円

https://iesot6.com/

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